新型コロナ対策 緊急承認制度の運用に問題 「仏作って魂入れず」の指摘
日本における新型コロナの感染者数は7月に入って急増し、感染者数が世界最多を記録するという異常事態となっている。ピークは過ぎたとされているが、一日当たりの全国の感染者数は10万人を超えており、高止まりの状態が続いている。コロナ禍の3年目となった今年の夏、政府は社会経済行動に対する制限を実施していないことから、これまでのように感染者が急減することは期待できない。
【写真】車イスに乗り、こちらを睨みつける桜田淳子。「神の真理こそが、人間の問題を解決できるもの」と発言していた(1993年4月撮影)
現在流行しているオミクロン型(BA.5)の致死率は季節性インフルエンザと同程度に低下したとの調査結果があり、新型コロナは「はやり風邪」になったと言えるが、感染者数がこれまでにないペースで急拡大したことから、自宅で療養している患者数(8月10日午前10時時点)は154万人を超え、4週連続で過去最多となっている。救急車の到着後に搬送先がすぐに決まらない事案が相次ぎ、自宅で死亡するケースも出てきており、「日本で再び医療崩壊が起きている」との声が出てきている。
岸田政権はこれまでの反省を踏まえ、万全の構えでコロナ対策を講じていたはずなのに、なぜこのような事態になってしまったのだろうか。
政府は感染症の司令塔と位置づける「内閣感染症危機管理庁」を設置し、民間病院を含め医療機関に対する指揮権を強化する取り組みを行ってきたが、「第7波」でも全国にある発熱外来のうち新型コロナに対応するのは全体の3割にとどまっており、有事に弱い日本の医療体制は少しも改善されていない。最前線で治療に当たる医師からは「もっと多くの医師が治療に当たってほしい」との悲鳴が上がっているのにもかかわらずに、である。
世界では新型コロナに対するリスク認識が大幅に低下しているが、日本では医師を含め一般の人々のリスク認識が一向に下がっていない感が強い。元々リスクに対する許容度が低いとされる日本では、手軽に服用できる「飲み薬」が普及しない限り、新型コロナを特別視する風潮は払拭できないのではないかと筆者は考えている。
塩野義に期待されていたが…
現在、軽症者にも使える飲み薬として米製薬大手メルクの「モルヌピラビル」と同ファイザーの「パキロビッド」が特例承認されている。特例承認とは海外での治験データを前提に国内治験も加味して承認する制度のことだ。
だが、これらの飲み薬には難点がある。パキロビッドは効果が高いと期待されていたが、高血圧の薬など「使用禁止」の薬が30種類以上もあることが災いして、政府は約200万人分を確保したが、実際の投与者はわずか1万5000人にとどまっている(7月中旬時点)。モルヌピラビルも飲みにくいという欠点があり(長径が2センチ以上)、調達した約160万人分のうち投与されたのは約23万人分のみだ。
こうした中で開発が進んでいた塩野義製薬のゾコーバは、国内産で手軽に服用できる飲み薬として、臨床医などの間で実用化の期待は大きかった。
政府も緊急時にワクチンや治療薬などを速やかに薬事承認する緊急承認制度を5月中旬に創設した。医薬品の審査は通常1年以上かかるが、この制度は「治験完了前の中間段階でも安全性が確認され、臨床上意義のある評価指標で有効性が推定できれば実用化を認める」としており、感染状況を踏まえた緊急性も考慮することになっている。
塩野義は今年2月に国内初の軽症者向け飲み薬としてゾコーバの承認を厚生労働省に申請していたが、緊急承認制度が成立したことを受けて5月下旬にこの制度の適用を申請した。政府はゾコーバの承認を前提に塩野義と100万人分の購入に合意しており、国内産飲み薬の期待は大いに高まっていたが、その期待は裏切られた。
厚生労働省の専門家分科会は7月20日、塩野義が開発したゾコーバの承認を見送り、継続審議にすることを決定した。「緊急承認に向けて有効性などのデータが十分ではない」というのがその理由だ。今回の審議にあたり、塩野義の提出データの審査を担った医薬品医療機器総合機構は「ウイルス量の減少傾向は否定しないが、症状改善のデータが不足している」との見解を示していた。
分科会は、塩野義から11月に最終段階の治験データが提出されれば改めて審議するとしており、残念ながら現在進行中の「第7波」の特効薬にはなりそうもない。
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