大阪桐蔭の「ライバル校」が甲子園で次々敗退…そこに見えた高校野球の“根深き問題”

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「もう少し長打に目を向けるべき」

 このように、長打が試合の結果を左右するのは珍しいことではないが、日本の高校野球では、長打の重要性が説かれることが少ないのが実情だ。以前と比べると減ってはいるものの、ノーアウト一塁の場面では、迷うことなく、送りバントを選択するチームが多いのはご存じの通りである。

 これに加えて、フライよりもゴロの方が相手のミスを誘うことが多いことから、送りバントが望ましいという風潮が根強いこともある。今大会の大阪桐蔭も送りバントをするケースは少なくないとはいえ、初戦の旭川大高戦ではビハインドを跳ね返して、逆転に繋がったのはホームランだった。

 これを受けて、元プロ野球球団アナリストは「高校野球はもう少し長打に目を向けるべきではないか」と指摘する。

「高校野球は、とにかく送りバント、打線を繋ぐことを重視していますが、得点するのに、一番有効な手段はホームランと長打です。それなのに、不思議と『長打を打て』という指導をしません。高校野球のTV中継での解説者も『逆方向へ』とよく言っていますし、フライでアウトになることに対して、否定的な意見はいまだに多いのが実情です。しかしながら、連続でヒットを重ねることは確率が低く、そんなにあることではありません。ある程度、長打を打てる選手を揃えるほうが得点に対する期待値は圧倒的に高くなります。もちろん、1点をとればサヨナラ勝ちできる場面では、得点圏にランナーを進めて相手にプレッシャーを与えるというのは有効です。しかし、常に送りバントや進塁打を狙うのは、極めて効率が悪い作戦です。高校野球はトーナメントで、リーグ戦とは違うという方も多いですが、基本的には『得点の確率を上げて、失点の確率を下げる方法』をとることは、トーナメントであろうと、リーグ戦であろうと変わらないでしょう。今後、プロなど高いレベルでのプレーを目指す選手の将来を考えても、高校野球界でもう少し長打を目指す指導が増えるべきではないでしょうか」

“滅私奉公”的なプレーからの転換

 前出のアナリストが指摘するように、今大会では、強豪校の“長打力不足”が露呈した。例えば、過去に夏の甲子園優勝を経験している横浜と明徳義塾は、長打が期待できる選手が非常に少なかったのだ。

 横浜は、初戦の三重戦は4-2で競り勝ったものの、続く聖光学院戦では2-3で惜敗。しかも、2試合で9安打と打線が低調だった。「守備は思うようにできたが、打撃は全国レベルではまだまだ足りない部分が多かった」とは、横浜・村田浩明監督の弁だ。明徳義塾もまた、初戦の九州国際大付戦に1対2で敗れ、5安打全てがシングルヒットで、長打は一本もなかった。

 前述したように、智弁和歌山は長打力のある選手がいながらも、それを発揮させてもらえなかった一方で、横浜と明徳義塾は、そもそも高いレベルで長打が期待できる打線ではなかったという点が寂しいところである。夏の甲子園で“最後の優勝”は、横浜が1998年、明徳義塾が2002年といずれも20年以上が経過しており、いささか時代に取り残されている感は否めなかった。

 高校野球は独自の文化があり、送りバントに代表されるような“滅私奉公”的なプレーが称賛されるが、スポーツである以上は勝てる確率が高い“長打を狙う野球”を目指すべき転換点に来ている。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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