(AIG)一、全英女子オープン、渋野日向子、美しい敗北

スポーツ

  • ブックマーク

 AIG女子オープン(全英女子オープン)最終日。72ホールを終えて1打足りずにプレーオフに残れなかった渋野日向子が、テレビのインタビューのさなか、「完全にこなせなかった」と反省していた。微笑する瞳が涙でうるみ、思わず泣きだしそうだった。

 それを見た瞬間、「あっ、美しい敗北の涙だ」と私は感鳴し、思わずメモをとっていた。

 ギャラリーの声援が耳に入ると、ボギーのあとでもぱっと振り向いて笑いかける姿は、これまで私が知る限りでは男子選手のアーノルド・パーマー以来である。なかなか出来るものはでない。心の中は腐り、「ようし、倍返しだ」と立ち直そうとする刹那の声援である。一般には無表情で受け止めて頷くのが精一杯の反抗だが、彼女は声主に振り向き白い歯を見せて応えていた。笑顔の中の強気な姿勢が彼女の持ち味だ。

 最も感動したのは、スコアが伸びなかったにもかかわらず、終了後、ロープサイドでサインを求める40人ほどの子供たち一人ひとりのキャップや手帳にサインをし、サンキューと笑いながら返したり、スマホでの写真撮影に応じたりしていたことだ。もれなく全員にサインをすると、そのまま練習場に入り、打ち込みをしていた。

 第2ラウンド目の渋野は、低いノーコックのトップから右肘を右脇に刺すようにして、ドライーバーではアッパーフローだ。アイアンとユーティリティではスイープショットしていた。しかし、腰の開きが早めになると、プッシュして打つやバンカーにつかまり、苦戦していた。ところが、第3ラウンド目からは両手の返しがマッチして、みごとに復調。最終日は、広いスタンスから低いボールを打ちバンカーに1発入ったものの、満点に近いショットで回復していた。

 私は過去2回、ミュアフィールド(英国スコットランド)で男子の全英オープンを現地取材してきたが、他よりもタフなコースだけに、女性はアンダーパーでは回れないだろうと苦言してきた。しかし、大会はアマチュアの白ティーを使ったおかげで、2桁アンダーのスコアを出した。

心の隙

 渋野の最終日は、3年前に優勝を争った同僚プレーヤーのアシュリー・ブハイと最終組で回る。スタート時点で14アンダーのブハイに9アンダーの渋野では勝負が見えていた。ブハイには3年前に渋野に負けたリベンジがある。前回と違い、フラットなスイングで黙々とグリーンを攻めた。5打差もあれば、崩れない限りは、振り払って逃げきり優勝に思えた。ブハイはリードしていても黙々と攻めるゴルフに徹していた。3年前とはそこが違っていた。

 一方の渋野には、どこかにかすかな同情心があっただろう。前回のお返しに花をもたせてあげたいという心の隙が、全くなかったと言ったらウソになる。

 しかし最終日の渋野は、バンカーを避けて完全なプレーに徹することで、お礼を求めていたことだろう。それは優勝というご褒美である。渋野は14番のダブルボギーでブハイと5打差と開くが、15番でブハイがトリプルボギーを叩き、再びチャンスが来る。17番では2オンに成功、イーグルパットで勝負に出たがショートしてしまった。この17番の勝負パットのミスが許せなかったことだろう。

次ページ:ブハイとのペアリングでなかったら……

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。