大本命・大阪桐蔭を倒す“番狂わせ”…下関国際が勝利した「決定的理由」
守備に対する“意識の高さ”
もう一つ大きな理由が、チーム全体の守備に対する“意識の高さ”だ。甲子園3試合で失策は5と、取り立てて少ないわけではない。しかし、それを補っているのは、ミスが起きても最小限に食い止めるという姿勢である。
それを象徴するようなシーンが初戦の富島戦であった。
2回裏、富島の先頭打者が放った打球はショートを守る仲井への平凡なフライとなった。この打球に対してセカンド、サード、レフト、センターが、万が一、ボールをこぼした時に備えて、仲井の周辺に素早く集まってきていた。
筆者は年間300以上の試合を現地で取材しているが、まさに“万が一”の確率でしかエラーは起こらないようなフライに対して、周囲の選手全員がバックアップに入ることができるチームはほとんど見かけない。こうした姿勢が、大阪桐蔭の強力打線を相手に初回に2本の長打で2点を先制されながらも、最終的に4失点に食い止めた要因になっていたことは間違いないだろう。
とはいえ、力がある2人の投手を擁して、守備力が高いというだけで、大阪桐蔭に勝てるわけではない。
前述したように初回で2失点を許した下関国際は、5回、6回と2イニング続けて同点に追いつきながら、その裏にすぐに大阪桐蔭に勝ち越しを許すなど、常に劣勢に立たされていた。試合の流れは、大阪桐蔭がこのまま圧倒する雰囲気は何度もあった。
「本当に選手たちが頼もしかった」
しかし、下関国際ナインには追い詰められているような表情は一切なく、むしろ、巨大な敵に立ち向かうことを楽しんでいるような印象さえ受けた。下関国際・坂原秀尚監督は、試合後のインタビューで、その理由について、以下のように話している。
「今年のメンバーは3年生が中心ですが、入学してきた時から(4年前に出場した学校として最高成績である)甲子園の準々決勝を超えることを掲げて日々練習してきました。準々決勝では必ず強い学校と当たる、その強い相手として最も想定できるのが大阪桐蔭さんだという話も常にしてきました。甲子園の準々決勝で大阪桐蔭さんと戦えるというのは、彼らがずっと目標にしてきたことでしたが、ひるむことなく立ち向かっていくことができました。本当に選手たちが頼もしかったです」
一方、9回表に殊勲の逆転タイムリーを放った4番の賀谷勇斗は「いきなり2点をとられましたが、その後もずっと攻撃でも守備でも攻めていこうというと言っていました」と話している。
そして、“攻める気持ち”は攻撃だけではなく、守備でも実を結ぶことになる。
この試合で大きな分岐点になったのは、7回裏の大阪桐蔭の攻撃、ノーアウト一・二塁の場面からの「トリプルプレー」だ。大阪桐蔭は、バントエンドランを仕掛けたものの、大前圭右のバントはピッチャーへの小フライとなってしまう。ランナーは飛び出して、帰塁ができず、ボールはピッチャーから二塁へ、そして一塁へ転送され、一瞬でチャンスが消滅してしまう。
この場面でも、下関国際は、決してひるむことなくチャレンジしていたという。坂原監督は、トリプルスリーの場面について、こう振り返っている。
「(大阪桐蔭にランナーをバントで)送らせて、ワンアウト二・三塁にするという考えは一切ありませんでした。フィルダースチョイスになってもいいから、サードで(二塁ランナーを)殺しにいこうと。そういう練習もしていました。(サードで殺せるように)ピッチャーの方に転がるような配球をした結果、小フライになってくれました。あそこが大きく流れを変えるプレーになったと思います」
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