「ちむどんどん」は不思議な“イラ朝ドラ” 残り1カ月半で解決されるべき問題は意外に多い

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暢子に対する裏切り、約束破り

 暢子は和彦の元婚約者・大野愛(飯豊まりえ)に対しても忖度しなかった。暢子にとって愛は上京後に出来た唯一の友人と言っていい。それなのに愛への謝罪も釈明もなく、和彦の思いをシラッと受け入れた。

 第14週、和彦は6年間交際し結婚するはずだった愛に対し、「全部なかったことにしてくれ」と告げ、別れた。オイオイ、である。一方、暢子は愛との約束を破る。暢子は第13週で愛にこう告げていた。

「和彦君は前から愛さんのことが好きで 、愛さんと付き合っている。だから(私も)好きだけど、きれいさっぱり、あきらめる」(暢子)

 ところが暢子は自分の言葉をきれいさっぱり、忘れてしまう。愛は恋人と友人に裏切られて、二重に傷ついたはすだ。

 これでは観る側がイラッとさせられても何ら不思議ではない。もちろん、制作者側も分かっているはずだ。

 朝ドラはもう61年105作品も放送された。たまにはイラッとするヒロインがいたっていいと制作者側は考えたのではないか。ただし、それを受け入れるかどうかを判断するのは一人ひとりの視聴者である。

賢秀の更正を描くのは至難

 9月30日の放送終了まで約1カ月半弱。残された問題は山積している。まず暢子が開業する店。その資金を賢秀が使い込んでしまう。 最終回までに店を軌道に乗せられるのか。それより難問なのは賢秀の更正だ。

 この物語は「心はつながって支えあう美しい家族」を描くという触れ込みだが、現時点では微妙。賢秀は29歳になったものの、いまだ比嘉家の悪性腫瘍。こんなにも長く賢秀のダメ男路線が続くとは思わなかった。

 更正はかなり難しい。妹3人を思う言動を見せているものの、おためごかしであり、自分が良い顔をしたいだけだからだ。

 ヤマッ気が異常に強いのも賢秀の大きな欠点。1971年だった第4週、我那覇良昭(田久保宗稔)による通貨交換詐欺に遭ってから、一攫千金ばかり狙い続けている。だからバクチですり、我那覇にまた騙された。

 それでも更正の糸口はある。賢秀が出入りを繰り返す千葉・猪野養豚所の娘・清恵(佐津川愛美)は賢秀に好意的だ。父親の寛大(中原丈雄)も賢秀を憎からず思っている。制作者側が賢秀と清恵を結婚させてしまい、猪野養豚場の跡継ぎにして、大団円にすることは可能である。

 ただし、賢秀が更正せず、観る側が納得しない形での結婚だと、「御都合主義」の誹りは免れない。今のままで賢秀に所帯を持たせるのは無理がある。猪野養豚所を売り飛ばしたって、おかしくない。どう更正を見せるのか。

 歌子の問題もある。歌子は第13週で母親の優子(仲間由紀恵)と良子に向かって「何年かかってもいいから、ウチは民謡歌手になりたい」と宣言した。その後、修業を積んでいる。

 誠実で勤勉な歌子の夢は、かなえられても観る側は疑問に思わない。ただし、制作者側が歌子と智を結婚させるつもりなら、これは容易には視聴者を納得させられない。双方にわだかまりがあるはずなのだから。やはり、どう見せるのだろう。

 4兄妹を描いている分、賑やかな物語になっているものの、時間に余裕がないように映る。だから、ある時期に重い立場だった登場人物のその後も最終回までに描けないのではないか。存在感が薄れ、暢子の結婚式にも出ていない叔父の賢吉や山原高陸上部キャプテンの新城、歌子の才能を見出した同高音楽教師・下地響子(片桐はいり)、そして大野愛らである。

 ナレーション処理でもいいから、この人たちが幸福になったことにしてほしいと願う。そうでないと、比嘉家が自分たちの幸せのみ追求するエゴイストたちに見えかねない。

 まだある。この朝ドラは沖縄の本土復帰50周年記念作。沖縄が返還された1972年からの現在までの50年が描かれる。最終回までの最大の課題は、本土復帰が比嘉家にとって何であったかをどう表すかだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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