甲子園で歴史的な名勝負が多い8月16日 松井秀喜、板東英二、江川卓…史上最高の試合も
“高校野球史上最高の試合”
2位は“高校野球史上最も悲劇的な幕切れ”と言われる98年第80回大会2回戦の豊田大谷(東愛知)対宇部商(山口)の一戦である。2-2の同点で延長戦に突入した試合は、延長15回裏、無死満塁と宇部商が一打サヨナラのピンチに陥っていた。この場面で2年生の左腕エース・藤田修平は次打者の4球目(この試合の211球目だった)を投じようとセットポジションに。だが、ここでキャッチャーの上本達之(元・埼玉西武)が出した2度目のサインに驚き、無意識に投球動作を中断してしまう。極限状態に追い込まれていた藤田は、上本との“2度サインを出す”という決まりを忘れてしまっていたのだ。この行為を、球審は“ボーク”と判定。3時間52分に及ぶ熱戦は、春夏を通じて史上初となる“サヨナラボーク”で決着したのである。のちに藤田は「あの場面でのちょっとした動作を見逃さなかった球審は凄いと思った」と振り返っている。“非運のエース・藤田修平”の名は今も高校野球ファンの胸に深く刻まれている。
1位は79年第61回大会3回戦、“高校野球史上最高の試合”ともいわれる箕島(和歌山)対星稜(石川)の一戦である。箕島は春の選抜王者であり、史上3校目となる春夏連覇を狙っていた。対する星稜は前評判こそ高くなかったものの、“打倒・箕島”を果たすべく策を練っていた。試合は4回に両チーム1点ずつを取り合う形で延長戦に突入し、迎えた12回表に箕島内野陣のエラーで星稜がついに1点を勝ち越した。その裏の箕島の攻撃も2死無走者となり、春の王者はあと1人と追い込まれてしまった。ここでベンチに向かって「ホームランを打ってきます!」と声をかけたのが、1番の嶋田宗彦(元・阪神)だった。その言葉通り、2球目をとらえた打球はスタンドへ飛び込んだのである。
起死回生の1発で死地から甦った箕島は、14回裏に1死三塁と絶好のサヨナラの場面を迎えた。だが、三塁走者が隠し球にあい、一瞬にしてチャンスを潰してしまう。星稜は延長16回表に右翼線への適時打でまたも1点を勝ち越し。その裏の箕島の攻撃も、2死無走者となり、今度こそ星稜が大金星を挙げるものと思われた。打席に入った2年生の6番・森川康弘は、気負いからか初球に簡単に手を出し、一塁ファールフライを打ち上げてしまう。だが、これで終わりと思った次の瞬間、星稜の一塁手が転倒。これに命拾いした森川は、レフトスタンドへ同点ホームランを放ったのだ。
延長18回表に2死満塁のチャンスを逃した星稜に対し、箕島は1死一、二塁から左前適時打をはなつ。引き分け再試合の寸前で、4-3で劇的なサヨナラ勝ちを収めたのだ。試合が終わったのは19時56分。3時間50分にも及んだ“真夏の夜の死闘”だった。
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