仙台育英が「夏の甲子園」で成し遂げた“史上初の快挙”とは 驚くべき投手陣の実力

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野球に対する貪欲な姿勢

 この戦いぶりにはプロのスカウトからも驚きの声が聞かれた。

「仙台育英はピッチャーだけじゃなくて野手も能力が高いですね。キャッチャーの尾形樹人(2年)は動きに少し無駄がありますけど、地肩の強さが凄い。ショートの山田脩也(2年)も動きが素晴らしいです。2年生がこれだけ多くてしっかりしているチームは久しぶりに見た気がしますね」(パ・リーグ球団スカウト)

 尾形は、2.00秒を切れば強肩と言われる「セカンド送球タイム」でこの日も1.94秒をマークしている。少し肘の位置が低く、後ろの動きが大きい点は気になったが、ボールの勢いは素晴らしいものがあった。一方、山田も調子を落としているため、この日は9番だったが、シートノックから軽快な動きを見せ、最終打席にはレフト前ヒットを放っている。

 須江監督は2018年に仙台育英の監督に就任し、夏の甲子園は今回が3度目の出場となる。年々チームは強さを増しているように見える。感心させられるのが、野球に対する“貪欲な姿勢”だ。

 2年前に無観客で行われていた、ある中学野球の大会を筆者が取材していることをSNSで見つけると、すぐに「高校の指導者は入場可能でしょうか」という連絡が来たことがあった。この大会は関西で行われていたものだったが、筆者が「申請すれば、入場は可能」と伝えると、須江監督はすぐに翌週の試合に足を運んでいた。

「大旗の白河越え」が達成される日

 また、昨年は「細野の牽制の動画を持っていませんか。うちの左投手に練習させたいので」という連絡が来たこともある。細野とは、東洋大で現在エースとして活躍している細野晴希(3年・東亜学園)のことで、ピッチングもさることながら、その巧みな牽制球にたびたび他チームの一塁走者がアウトになっており、そのことが新聞記事でも紹介されていたのだ。こうした細かい情報にもアンテナを張り、すぐに自チームのプラスとするために行動することはなかなかできることではないだろう。

 仙台育英は、8月15日の3回戦で、初出場の茨城代表・明秀日立を5-4で振り切り、ベスト8に進出した。準々決勝は、愛知の名門、愛工大名電と激突する。前出のスカウトからは「来年は全国でもトップ」というコメントがあったが、東北勢の悲願である「大旗の白河越え」が達成される日は、意外にもうすぐそこなのかもしれない。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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