帰省をきっかけに恋心が再燃して… 無意識のうちに不倫を始めてしまった52歳男性の恐怖体験
彩里紗さんの過去
彩里紗さんに案内されて、町外れの小さなスナックを訪れた。
「奥のVIPルームへ行きました。といってもカーテンで仕切られた奥の席ということですけど(笑)。そこで彩里紗の過去をいろいろ聞かされました」
両親の離婚をきっかけに「何もかも嫌になった」彼女は、噂通り不良グループとつるむようになった。その中の「誰かの子」を妊娠、17歳で出産した。父親候補のひとりであるグループのリーダーだった男と結婚して遠方に引っ越したものの、20歳で離婚。
「親の離婚で傷ついたはずなのに、自分は誰の子かもわからない子を産んでさらに離婚。親よりひどい生き方をしていると思ったと彼女は言っていました。でも坂道を転げ落ちるような人生は止めようがなかった。22歳のとき再婚してもうひとり子どもができたけど、今度は夫のDVでひどい目にあった、と。殴られて顔が腫れ上がり、肋骨も折った。その状態でなんとか子どもを連れて家を飛び出し、警察に駆け込んだそうです。その結婚ももちろんダメになったと」
彼女は水商売を転々としながら、なんとか子どもたちを育て上げた。その過程では、いろいろな人たちに世話になったと話し、「世間って意外とやさしいと思ったこともあるよ」としみじみ言った。
子どもたちが小学校に入ったころ、彩里紗さんはせめて高校卒業資格くらいもっておきたいと思うようになった。反目しあっていた母親が病気をしたこともあり、地元に戻った。気弱になった母親は彼女の看護を受けて回復、元気になると子どもたちのめんどうを見てくれた。彩里紗さんは水商売で糧を得ながら、昼間は勉強して高校卒業の資格を得た。
「それから美容師になるために専門学校に行き、アシスタントを経て美容師になったのが30歳のときだそう。苦労したみたいですね。一時期は地元を離れて修業していたとも聞きました」
もともと彩里紗さんの母親は服飾関係の仕事をしていた「センスのいい人」だったらしい。彼女が美容師になると母親も何か思うところがあったのか、裁縫を始めた。今では彼女がヘアを整え、母がスタイリストのように顧客に似合う服をセレクトしたりしているそうだ。
「細々と仕事をしながら、なんとか食べてこられたという感じよと彼女は笑っていました。でも、そこまで来るのは大変だったと思う」
そして始まった「遠距離不倫」
再会した時点で、彼女の子どもたちは30歳と25歳。父親を知らないで育ったふたりだが、「私のような回り道はしないで、すんなり自分の好きなことを見つけたみたい。今はふたりとも東京にいるよ」と、またも彼女は明るい笑顔を見せたという。
「その話に心打たれたというか、僕なんか、何の苦労もなく生きてきたなと思いました。逆に言うと、流されるままに生きてきたというか。逆境にありながらも努力を続けた彼女を心からすごいなと思ったし、実際、彼女に『すごいなあ、彩里紗は。がんばったんだね』と言いました」
すると彼女は急に涙ぐんだという。そして「いつも強気なんだけどさ、そうしみじみ言われるとなんだか心乱れるわ」と笑った。
帰したくない。晴敬さんはそう思った。このまま帰したら後悔する。だから朝まで飲もうと彼は言った。
「いいけどさ、この店はもう閉店よと彼女に言われて。ふたりで外に出てぶらぶら歩いていたら、ホテルの看板が目に入った。地元でホテルに入るのはまずいかなと思ったけど、彼女の顔を見ると、彼女も僕を見ていて……。気持ちは同じだとわかりました」
外が明るくなる前に、ホテルを出てそれぞれ家路についた。彼女は結ばれたあと、涙声で「ハルちゃんのこと、好きになりそう」と言った。「オレは中学のときから彩里紗が好きだよ」と彼は答えた。
それからふたりはときどき、会うようになった。彩里紗さんの子どもたちが東京にいるので、彼女は子どもに会うという理由でやってきた。美容関係の研修会に来たからと連絡をくれることもあった。
「僕が地元に頻繁に帰るのは変なので、彩里紗が東京に来るときに会うことが多かったですね。2回に1回は交通費なども負担しました。彼女は嫌がったけど、無理矢理受け取ってもらった。彼女が一度は見たいと言っていたライブとか、クラシックのコンサートとか歌舞伎などにも行ったことがあります。僕もそんなに文化的な生活は送ってなかったけど、会社でときどきコンサートの招待券などが手に入ることがあったので、いち早くもらって彩里紗を誘いました」
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