中国人留学生をスパイに仕立てた人民解放軍「サイバー攻撃部隊」の手口 元公安警察官の証言
JAXAをサイバー攻撃
2016年春、王容疑者は大学を卒業、帰国した。同年11月、軍人の妻からさらに難易度の高い依頼が来た。
「日本の法人向けのウイルス対策ソフトを購入するよう指示されたのです。そのソフトは日本の企業だけにしか販売できないため、王は架空の企業名や担当者名を使いました。ところが、ソフトの販売会社は王が提示した企業の登記が確認できなかったため、不審に思って販売を拒否したのです。それで王は怖くなって軍人の妻に『これ以上は危険です』と伝えると、彼女は『国家に貢献しろ』と言い放ったそうです。もっともその後、軍人の妻から新たな指示はなくなったそうですが」
警視庁公安部は、2016年から17年にかけて行われたJAXAなどへのサイバー攻撃を捜査。人民解放軍のサイバー攻撃部隊が使用した日本のサーバーのうち、王容疑者が提供した以外のサーバーは、日本に住む30代の中国共産党員のものだったことが判明した。2021年4月、この中国共産党員は偽名で契約したレンタルサーバーを中国のサイバー攻撃部隊に転売していたとして、私電磁的記録不正作出・同供用容疑で書類送検された。
「公安部は、王容疑者が通っていた日本語学校の同級生も任意で事情聴取しました。中には、王と同様に人民解放軍に協力したと疑わしき者もいましたが、証拠不十分で立件できませんでした」
こうしたスパイ事件は増えつつある。中国は2017年6月、国家情報法を施行している。
「これは、国民や中国企業に国家機関の情報活動への協力を義務化した法律です。これで中国の産業スパイ事件が一気に増えました。危機感を覚えた安倍晋三首相(当時)は、中国の産業スパイ対策を議論。昨年10月、岸田内閣で経済安全保障の担当が置かれることになりました。実体は産業スパイ対策大臣です。警視庁も同年4月、中国と北朝鮮を担当していた外事2課を中国専門にして、北朝鮮を3課に分離させています」
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