中国人留学生をスパイに仕立てた人民解放軍「サイバー攻撃部隊」の手口 元公安警察官の証言
日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。昨年9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、中国人民解放軍に利用された中国人留学生について聞いた。
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警視庁公安部は昨年12月、中国人民解放軍人の関係者から指示を受け、日本製の企業向けウイルス対策ソフトを不正に購入しようとした詐欺未遂容疑で中国人元留学生王建彬(おうけんひん)容疑者(36)の逮捕状を取った。同容疑者は中国に帰国しているため、ICPO(国際刑事警察機構)を通じて国際手配する予定だ。
「今回は、中国による産業スパイの典型的な事件ですね」
と解説するのは、勝丸氏。
「人民解放軍は、優秀な留学生がいると、その人物の実家を調べあげ、本人と接触するのです。『我々に協力してくれたら、両親の年金をアップしよう。君が中国へ戻った時は優遇されます。情報収集をすれば報酬を払います』と持ちかけるのです」
「61419部隊」
仮に人民解放軍の要請を断れば……
「『君の両親が、どうなるかわからない。君も中国へ帰ったら、どうなるか保証できない』と脅かされるのです。こんなことを言われて、断れる人はまずいません。今回逮捕状が出た王容疑者は真面目な学生だったそうです。それでもスパイにさせられるのです。まさかと思うような人が、ある日突然スパイになる。これが中国の特徴なんです」
王容疑者は2010年、日中貿易の仕事を目指して大阪市の日本語学校に入学、2012年、トップの成績で卒業した。その後、大阪市内の私立大学の経営学部に進学した。大学在学中に人民解放軍人の関係者からある依頼をされた。
「彼に依頼をしたのは、人民解放軍のサイバー攻撃部隊『61419部隊』に所属する軍人の妻でした。彼女と王は、彼が来日する前に勤務していた中国の会社の上司の紹介で知り合ったといいます。人民解放軍は、王が日本に留学することを知った上で、彼をスパイにするために彼女を接触させたのでしょう」
軍人の妻からの最初の依頼は、日本のUSBメモリーを入手することだった。
「彼女にUSBを送ると、王のもとへ報酬が届いたそうです。中国へ日本のUSBを送っても、違法ではありません。最初は誰にでもできる簡単な、法に触れない依頼から始まって、次第に難易度の高い依頼へと変わっていくのです」
2016年、王容疑者は軍人の妻から、日本国内のレンタルサーバーを契約し、IDとパスワードを送るように指示されたという。
「王が契約したサーバーは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や三菱電機、IHI、慶応大、一橋大など防衛や航空関連に関わる約200の研究機関や企業の機密情報を狙ったサイバー攻撃に使われました。人民解放軍によるサイバー攻撃では、日本の複数のサーバーが使われ、その一つが王のサーバーだったのです。日本のサーバーを経由することで、検知システムに不正アクセスだと認識されにくくするためでした」
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