今どきのヤクザは続けても辞めても大変…現役組長と元暴力団員に襲い掛かったトラブル
警察の見込み捜査
この状況下で共犯者のCがAさんの名前を出した。そこで捜査員たちは急いでAさんを逮捕したのだった。
ところがCは、取り調べ中に「日本人の知り合いはいるか?」と質問されたので「Aさんのことを知っている」と答えただけだった。CはAさんから個人的にカネを借り、その返済日が迫っていた。しかし自分は逮捕されて留置場に拘束されている。
真相は「Aさんに返済が出来ないのでどうすればいいのか?」というような相談話を捜査員にしたいだけだった。
だが捜査当局は、Aさんこそ密輸事件の日本人ボスに違いないと決めつけて逮捕した。Aさんは現役の暴力団幹部であり、しかも過去に覚醒剤事件での逮捕歴があったことが、当局の予断を強めてしまった。
Aさんは過去の逮捕に懲り、覚醒剤には近寄らず、今は貸金業を営んでいた。その客のひとりがCだったのだ。
もしAさんがカタギの一般人だったら、こんなふうに即逮捕となったのだろうか?
組員に人権なし
捜査当局はAさんに任意同行を求め、時間をかけて事情を訊くことは容易にできたはずだ。しかし捜査員たちは、Aさんが暴力団幹部だったため、「日本人ボスはコイツに違いない」と思い込んでしまった。
少しでもAさんの身辺を捜査していれば、Aさんは覚醒剤とは無縁であり、Cとは金銭の賃借関係しかないということが判明したと思われる。
覚醒剤による過去の逮捕を反省している、といったAさんの人間性が捜査で考慮されることもなかった。単に「暴力団幹部」という肩書だけを見ての逮捕だったのだ。
誰もが知っている通り、近年は暴力団員というだけで様々な規制の対象となる。それにとどまらず、暴力団員という理由だけで簡単に逮捕されるようになってしまえば、もう暴力団員の人権は忘れ去られてしまったとしか言いようがない。
その昔、未解決事件の犯人逮捕に業を煮やした当局が、無実の被差別部落の住人を逮捕して犯人にでっちあげて事件解決としたというような都市伝説のような噂を聞いたことがある。Aさんのケースは、まさにそれに近いものがあるのではないだろうか。
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