拳銃も車も無い時代、人間はゾンビとどう戦うのか? 実は「韓国時代劇」が1番面白い
ネットフリックスの再生回数ランキングの上位を韓国ドラマが独占し、「地上波ドラマの視聴率が軒並み伸び悩んでいる」なんて話もちょいちょい耳にする昨今。韓国ドラマを20年来見続けている私には「ついに韓国ドラマが日本における『定番』になったんだなあ」と感慨深いのだが、そこに至ってもイマイチ普及していないのが「韓国時代劇」である。「韓国ドラマしか見ない」というガチなファンですら「時代劇はハードルが高い」なんて言うのを聞くにつけ、「なんてもったいないことを」と思わずにいられない。なぜなら時代劇は韓国ドラマで最も面白いジャンルだからだ。【ライター・渥美志保】
【写真】独特な描き方をされるという韓国作品のゾンビなど、一気見しやすい“話数短め”ネトフリ作品の場面写真
日本の時代劇のイメージとは違う
多くの日本人が思い描く時代劇は、「水戸黄門」とか「暴れん坊将軍」といった「ご年配の方が見るもの」というイメージだと思う。それに加えて、韓国の歴史や文化をよく知らないので、「韓国時代劇=あんまり興味が持てないご年配系の渋ドラマ」というバイアスが掛かってしまうのである。
だが、いわゆる韓国の連続ドラマ枠で作られているのは「フュージョン時代劇」という飛躍した設定の時代劇なのだ。時代設定こそ李氏朝鮮や高麗など百年単位の過去だが、主演は連続ドラマ常連のスターやアイドル出身の人気俳優だし、内容はラブコメあり、復讐ものあり、サスペンスあり、スリラーあり、ファンタジーありと、バラエティ豊かだ。そして現代劇以上に面白いのは、「時代劇ならでは」の要素があるからである。
ただの「ゾンビもの」とは違う点
2019年に放送開始し、Kゾンビ作品(韓国で制作されるゾンビもの)の先鞭を切った「キングダム」(ネットフリックスで配信中)を例にとってみよう。同作は日本のドラマにはない発想の「時代劇ゾンビもの」で、ニューヨーク・タイムズが選ぶ「2019年のインターナショナルTVショーのトップ10」に選ばれた作品である。
物語は、病に倒れた王が、人知れずゾンビになっているところから始まる。朝廷の権力者・領議政(よんいじょん=首相)に接見を禁じられた世子(後継指名された王子)は、病状を知ろうと寝所に忍び込み、王が怪物になっていることを知る。その真相を探るべく、職を辞した侍医の故郷を訪ねると、そこでは王と同じ感染症が大流行し「人を食う生ける屍」がウジャウジャいるのである。
最大の見どころは、人間とゾンビの戦いである。普通の「ゾンビもの」と何が違うんだよとつっこまれそうだが、時代劇には現代のゾンビものにおいて人間側の最大の武器になる「飛び道具」が圧倒的に少ないのだ。拳銃やライフルはもちろんなく、誰もが手に取れる武器は、ある程度の距離があれば「石」で、近距離なら「竹やり」。自動車はもちろんないから、逃げるにはひたすら走るのみ。
そんな中で世子は、首都・漢陽への感染拡大を防ぐための城砦戦を戦うハメになる。とはいえ塀はちょっと頑張ればゾンビもよじ登れる高さだし、門は大群が来ればひとたまりもない木製である。城壁の周囲に巡らした「落とし穴」も急ごしらえの手堀りなので、押し寄せるゾンビの大群ですぐに埋まってしまう。闘いはおのずとギリギリの肉弾戦となり、そのスリルはアメリカドラマ「ウォーキング・デッド」の比ではない。
時代劇では科学や技術がないがゆえに、現代であれば大した問題にならないことがひどく困難になり、現代でも困難なことは決死の“ミッション・インポッシブル”になっていくのだ。
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