【実録・田中角栄】持論は「頼れるのはカネと新潟の人だけ」、番記者に松坂屋の背広仕立券、脳梗塞で倒れた日のこと、政治記者5人の証言
ほくそ笑む男たち
通信社 皆、番の鋭い目に戻ってきたところで、そろそろ総括していきましょうか。
ブロック紙 ものの見方が独特で、例えば「米作農民を農民と考えるからいけない。あれは公務員。作った分だけ買い上げてもらえるしクビになることはない。で、いつもベアをやっている」と話していた。開けっぴろげでね。「(自身の婚外子の)認知のために役所に行ったら『松野さん、松野さん』と呼ぶ声がして、見たら松野頼三(元農林相)だった」と言うし、国会内のトイレで一緒になれば「最近寂しいんだ、こっちの方がおしっこ専門の穴になつちゃってね」と漏らす。
TV オールドパーをストレートで飲んでいた話が出ましたが、「せめて水割りにしたらどうですか」と言うと、ぽたぽたぽたと水を垂らして「水割りだ」と。愛嬌があったなあ。
地方紙 そうですね。「人事を追うような記者は大成しない。勉強しろ」と口酸っぱく言われたけど、「とはいえ官房長官は誰ですか」と食い下がると、ヒントを書いたメモをわざと落としてくれたことがある。また、ロッキード裁判について聞いた時には、「(孫の)雄一郎が学校から帰ってくると泣いてる。『お前のじいちゃんは被告人だと言われ、体育館の後ろで砂を投げつけられた』と。俺は卸し金で背中をごしごしされても平気なんだが、こればかりは……」と吐露していた。
全国紙 ロッキードにしてもそうだけど、嫌なテーマでもちゃんと答えるし、とにかく頭が良い人だった。今の政治家とは全然違いますよ。産経にいた額賀(福志郎)は佐藤首相番をやっていたんですが、僕の書いた原稿を「ちょっと拝借」と、自分の原稿にしたこともあった。そんな人物が田中派の流れをくむ派閥のボスだから何をか言わんやだよ。
地方紙 額賀の先輩で、産経政治部から佐藤(首相)の首席秘書官に転じた楠田實が角さんを「ダーティーと言うけれど果たしてそうか。歴代首相の中では最もクリーンな総理だ。金権と言えば言うほど、ほくそ笑んでいる男たちがいる」と評していた。過去の首相の裏には常に右翼が黒子のように張り付き、彼らとの付き合いは闇だった。ロッキードの5億どころではない大金が動いていたと示唆しているのです。
全国紙 カネは派手に多方面にばらまいたけど、椎名悦三郎(元外相)によれば「集めはしたが角栄のところは素通りしている」そうだ。
TV 戦後の混乱期、エスタブリッシュメントが再形成過程にあり、自民党はまだ存在しなかった。そのタイミングで議員バッジをつけたのが奏功し、角さんは政治の中枢に入り込むことができた。そのインナーの場で「岸、池田、佐藤……誰の力も借りずにトップになったのは俺だけ」と胸を張ったし、当選年次に重きを置いていたから年長の福田赴夫でも“福田君”と呼んだ。軍隊と同じで「星の数でものを言う」ことにプライドを持っていた。例えば徳洲会の徳田虎雄も角さんと同じく“外からの突入”を試みたタイプだけれど、跳ね返されてしまったのとは対照的です。
通信社 語れば語るほど、田中はいまだ毀誉褒貶の十字路に立たされている、そして番として聞きそびれたことがまだ山のようにある、そう感じるね。(敬称略)