沖縄激戦地で発掘された「存在しない名字のハンコ」 調査の結果明らかになった驚きの真実とは

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いざ北海道へ

 公式な登録もできる上、実例があった、というのは何よりも心強い。福島会長いわく、

「本来なら、佐藤と彫って、その下に小さく『岩』を添えるのが標準。だが、戦争中は手彫りの時代。このサイズの印面に3文字彫るのは可能だが、戦場で使う実用印の性格上、字が小さくなって印影が分かりにくいと、目的からはずれてしまうのでは」とのこと。

 次に、発掘したハンコの素材や出来栄えを調べ、本体が緩くカーブしていることや中央に核があることなどから、印材は水牛などの動物の角か牙と鑑定。

「納期を急かされたのか、工賃を削られたのか、本職が短時間で仕上げたような技にみえる。もしかしたら同じようなハンコを大量注文されたのかもしれない。だとすれば、氏名を略したことも説明がつく」と話す。

 よし、これで持ち主の遺族を探せる、と意気込む夫・哲二。ハンコの持ち主は、歩兵第32連隊第1大隊第3中隊の佐藤岩雄さんなのか、まだわからない。遺留品は、当事者の遺族に認めてもらってはじめて本人のものだと断定できるからだ。今年6月、私たちは佐藤さんの出身地・北海道へと向かった。

(次回へ続く) 

浜田哲二 (はまだてつじ)
元朝日新聞カメラマン。1962年生まれ。2010年に退職後、青森県の白神山地の麓にある深浦町へ移住し、フリーランスで活動中。沖縄県で20年以上、遺骨収集を続けている。

浜田律子(はまだりつこ)
元読売新聞記者。1964年生まれ 奈良女子大学理学部生物学科・修士課程修了。

週刊新潮 2022年6月30日号掲載

特別読物「遺留品が語る『沖縄戦』秘話 激戦地で発掘 『ハンコ』が導く遺族探しの旅 前編」より

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