愛工大名電の「不可解な采配」に疑問の声…痙攣したエースを続投させる必要があったのか?

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故障に繋がるリスクも

 有馬本人の意思を尊重しての続投だったことは、彼らの話からも見えてくる。愛知大会で有馬の投げたイニング数は25回で、他校のエースと比べて、目立って多いとはいえない。次の試合まで間隔が空くことを考えれば、多少の無理はきくと判断したと言えるだろう。

 しかしながら、有馬の球速は、立ち上がりに140キロを超えていたが、脚が痙攣した6回以降明らかに落ちた。7回は失点こそなかったものの、3本のヒットを打たれ、満塁のピンチを招いている。この場面で、愛工大名電のブルペンを確認したが、誰も準備している投手がいなかった。

 高校野球の現場で指導するトレーナーは、脚に不安を抱えた投手が投げ続ける“危険性”を指摘する。

「(有馬と同じ)左投手の場合には、左脚のふくらはぎが痙攣することが多いですね。右足を踏み出す時に、左足でマウンドを蹴るため、その時に大きな負荷が左足のふくらはぎにかかります。ふくらはぎが痙攣して、踏み出す力が弱くなれば、ボールは高めに浮きやすくなる。それを上半身の力で補おうとすると、肩や肘、背中などに、さらに大きな負担がかかります。こうした状態で投げ続ければ、当然、故障に繋がるリスクが高くなることから、トレーナーの立場からいえば、異常が生じた時点で、すぐに降板するのが望ましいです」

暑さに加えて“緊張”も

 有馬のコメントにあるように、本人が肩や肘に異常を感じていないことは不幸中の幸いだが、故障の高いリスクを伴った続投だったことは間違いない。

 筆者は、地方大会、夏の甲子園を通じて、試合中に脚を痙攣させる選手を見ている。だが、意外なほど選手が交代するケースは多くない。今大会では、8月8日に行われた海星対日本文理戦では、日本文理のライト、玉木聖大が6回の守備で両足がつり、担架で一度ベンチに運ばれた。その後、試合に戻って、8回までプレーを続けていた。

「痙攣の要因として、暑さに加えて、もうひとつ“緊張”が大きいと思います。甲子園はもちろん、負けたら終わりの試合となると、それだけ選手は緊張して、いつも以上に汗が出てしまう。普段と同じペースで、水分補給をしていても十分ではないこともあります。また、当日だけ、痙攣対策をしても、それには限界があります。なるべく早いうちから暑さに体を慣らしておくことが必要になります。一度痙攣を起こしてしまうと、しっかり安静にして時間を置かなければ、それまでと同じように動くことは難しい。(どんなポジションの選手でも)痙攣したら他の選手に交代する方が良いと思いますね」(前出のトレーナー)

 大会前には、高野連が熱中症対策として甲子園大会を朝と夕方の“二部制”にすることも検討すると報じられたが、球児を取り巻く環境は年々過酷になっている。チーム関係者は、選手の健康を守るべく、できる限りの対策を徹底してほしい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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