「村上宗隆は巨人でも楽天でもなくヤクルトに入団してよかった」他球団スカウトがそう思う理由

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捕手から内野にコンバート

 村上が指名された2017年のドラフト会議といえば、もうひとり忘れてはいけない選手がいる。同年の夏の甲子園で大会記録を塗り替えた6本塁打を放った中村奨成だ。中村は、最初の入札で2球団が競合し、広島が交渉権を獲得した。甲子園を沸かせた活躍がなければ、村上と同様に「外れ1位」まで残っていたことが十分に考えられる。

 前出の九州担当スカウトは、当時の村上と中村がいずれも捕手だった点を指摘したうえで、ヤクルトがコンバートさせて育成する方針が成功したと話す。

「村上は2年からキャッチャーをやっていて、肩も強かったのですが、守備全般で考えると、中村奨成のような飛び抜けた実力があったわけではありません。プロでもキャッチャーで勝負させるのか、打撃を生かしてコンバートするのか、コンバートするとしてもどこにするのか、そういった議論は当然ありましたよね。守備で覚えることが多いキャッチャーであれば、当然、プロで一軍の試合に出るには時間がかかるため、村上が2年目からレギュラーになることはなかったと思います。ヤクルトは、最初から内野にコンバートして、守備には多少目をつぶって、打撃を伸ばそうという方針が一貫していました。また、村上が一軍に定着した2019年はチームが最下位に低迷していたので、抜擢しやすかった。こうした経緯を考えると、本人にとってもヤクルトに入団したことは良かったと思います」(前出の九州担当スカウト)

 筆者は、実際に、他の球団で村上を捕手として評価していたという話をスカウト陣から聞いたことがある。我慢すれば、阿部慎之助(元巨人)クラスの“打てる捕手”になった可能性は否定できないとはいえども、昨年達成した最年少通算100号本塁打など、これほど若くして大きな成功をつかむことはなかっただろう。

 現在の状態を考えれば、2002年の松井秀喜以来となる日本人選手の50本塁打到達は十分に射程圏内であり、さらには、王貞治の持つ日本人選手最多の55本塁打、バレンティンの持つシーズン60本塁打に迫ることが十分に期待できる。ここからどこまでの高みに上り詰めていくのか、今後も村上のバットから目が離せない。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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