老人ホーム選びで「口コミ」が役に立たない理由 「24時間看護師常駐」は意味がない?

ドクター新潮 介護 その他

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ミスマッチの原因は「施設の専門性」

 先ほど述べたように、着替えサポートが必要か否かは、入居者のニーズ次第です。不要なのに、いちいち手伝ってくれるのは逆に自立の妨げとなり、「介護のオーバースペック」、ホームと入居者の「ミスマッチ」といえます。したがって、入居者の心身の状況に合った老人ホームを選ぶ必要があるわけです。

 こうしたミスマッチは、施設の専門性によっても引き起こされます。

 例えば、認知症の要介護入居者の扱いは上手だけれど、身体障害の要介護入居者の扱いはからっきしダメという施設は珍しくありません。前者の入居者はすでに十分なコミュニケーションがとれない人が多いので、淡々と身体介護をしたり、排泄物を処理したりできる介護者が向いています。

 一方で後者の入居者は、体は不自由でも認知機能はしっかりしているので、介護者に対する要求が多いこともあり、介護者にはそれをうまくさばくコミュニケーション力が求められます。何よりも体の障害をサポートするために、筋肉や関節の仕組みに関する深い知識が必要とされます。

 このように、入居者のタイプに合わせて介護者に求められる技術は全く異なります。ゆえに、施設の専門性をしっかり見極めることが、ミスマッチを避ける意味で老人ホーム選びの極めて重要なポイントなのです。

「24時間看護師常駐」のワナ

 次に「オーバースペック」について説明します。

 前回で、「24時間看護師常駐」を謳(うた)う老人ホームは果たして……という問いかけをしました。業界では「24ナース」と呼ばれていて、文字通り看護師が常に施設にいるというサービスです。いざという時に看護師さんが助けてくれる――そうした「安心感」から、どうせなら24ナースのほうがいいと選ぶ人が少なくありません。

 しかし、そうとは言い切れないのが今の老人ホームの実態と言わざるを得ません。昼も夜も、固定の看護師がシフト制で常駐している老人ホームであれば、確かに安心感は得られるでしょう。ですが、現実は必ずしもそうではありません。多くの場合、夜勤の看護師は派遣会社から送られてくる派遣ナースです。しかも、同じ看護師が派遣されるならまだしも、空いている看護師がランダムに送られてくることもままあります。

 そうしたケースでは、派遣ナースは日頃からこまめに入居者に接しているわけではないので、緊急事態が起きても自分では何も判断できず、結局は救急車を呼んで病院に送り込むだけということも往々にしてある。しかもなかなか受け入れ病院が見つからず、看護師ではなく介護者が必死に電話して受け入れ先を探したり……。これは施設で働いた経験者なら分かる「老人ホームあるある」です。

 そもそも、看護師は医師の指示の下で医療処置をするため、医師がいない老人ホームでは、その力を100%発揮することはできません。にもかかわらず、24ナースという看板だけで安心感を覚えてしまう人が少なくない。有り体に言えば、派遣看護師が常駐していたところで、大して役に立たないことがほとんどなのです。

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