日本人の「不安遺伝子」は世界一 『スマホ脳』著者が明かす、うつを防ぐ最も効果的な方法

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なぜ運動はうつを改善する?

「2020年には『運動でうつは改善できるか』というテーマで行われた複数の研究をメタ分析した研究を、さらにメタ分析した研究が発表されました。そこでも結果は同じ。運動は精神状態を改善するのです。

 15分間ジョギングするだけでうつになるリスクは26%減少し、1時間の散歩でもやはり同じだけリスクが下がるという研究結果もあります。

 不安予防にも運動は効果的です。19年に出されたメタ分析でも、20年のメタ分析でも、運動する人は不安が少ないという結果が出ました。

 重要なのは、どんな運動をするかではなく、どんな種類の運動であれ運動すること、心拍数を上げることでした。これは“心拍数が上がるのは、何か悪いことが起きる前兆ではない”と体が学ぶことで、不安が減るのだと考えられます。

 ただ面白いことに、運動する際に出るホルモンと、ストレスを感じる際に出るホルモンは同じなのです。

 コルチゾールというホルモンなのですが、このホルモンは走り始めると副腎から分泌され、走り終えると走る前より血中濃度が下がります。運動の後に心が落ち着く感覚が訪れるのはこのためです。

 定期的な運動によって脳が“運動するのは快適なことなのだ”と判断するように調整されていくのですが、そうはいっても運動の継続は、なかなか簡単ではないかもしれません。

運動にためらいがある人は「脳にだまされている」

 そもそも人間はどのように進化してきたのでしょう。そう、消費カロリーをセーブすることを最優先で生き延びてきたわけです。つまり、無闇に走り回ってカロリーを消費するくらいなら、ソファでのんびりしていたいと思ってしまうのは当然なのです。

 だからといって運動しないのは、あまりにもったいないことです。運動が心身によい影響を与えることはさまざまな研究から明らかです。もしも運動することにためらいがあるというなら、それはあなたが脳にだまされているからかもしれません」

――脳にだまされている?

「だますと言うと語弊があるかもしれませんね。私たちの脳は抜け目がありません。でも常に賢くはない。生まれつき怠け者で、運動などさせずエネルギー消費を抑制する脳の戦略は、長い間うまく機能してきました。ですが、現代社会では死の罠になります。

 脳は感情を作ります。不安も作れば恐怖も作る。自分を不幸だと思わせたり、他人と比較させたりする。生き延びるために必要だからそう進化してきたわけですが、私たちは自分たちの脳がそういうものであることを知っておいた方がいい。脳は心臓や肝臓と同じく一器官に過ぎないのだと。

 脳がどう機能するかだけでなく、なぜそう機能するのか。それを知っておくことが重要なのです。

 言い換えれば、うつや不安に襲われたときには、知識こそが鍵となります。

 自分の脳より賢くなりましょう――それこそ私が一番お伝えしたいことです」

週刊新潮 2022年7月28日号掲載

特別読物「ベストセラー『スマホ脳』著者が語る『ストレス脳』対策」より

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