戦力外「筒香嘉智」巨人が獲得しても「甘くない」現実 メジャーで露呈した「致命的欠陥」

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コロナがケチの付き始め

 MLB球団が名乗りを上げることは予定調和のように、なかった。パイレーツの筒香嘉智外野手(30)は8月3日にメジャー出場の前提となる40人枠から外れ、事実上の戦力外になった。ウエーバーにかけられたものの、年俸400万ドル(約5億3000万円)のうち残り試合分を肩代わりしてでも獲得したいという球団は皆無だった。今後は自由契約となり、このオフには日本球界復帰も現実味を帯びる。それにしても、メジャーではこれが実に3度目の戦力外。渡米時は松井秀喜以来の長距離砲として活躍が期待されたスラッガーが、一体なぜ、ここまで苦しんだのか。【津浦集/スポーツライター】

 2019年12月、筒香はDeNAからポスティングシステムにより、2年総額1200万ドル(約13億円/為替レートは当時)で移籍した。10年に横浜高からドラフト1位で入団し、16年には44本塁打、110打点で2冠に輝いている。10年間で205本塁打。久々の日本人ホームランバッターの本場挑戦で、注目度は高かった。「打撃でチームに貢献したい。もちろん長打が期待されていると思う」などとの入団会見での言葉の端々にも、本人のその自覚がうかがえた。

 筒香は15年オフにドミニカ共和国でのウインターリーグでプレーした。米国でも再三、自主トレーニングを実施し、将来の大リーグ入りに備えた。17年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表では4番を務め、国際試合での経験も積んでいる。

「メジャー入りはゴールではなく、スタートと位置づけていた。箔を付けるためにアメリカに行くわけではなく、メジャーで骨をうずめるというスタンスに見えた。モチベーションでは、これまでの日本人野手では最も高い選手の1人だと感じていた」(元NPB監督)

 しかし、新型コロナウイルスがケチの付き始めだった。20年3月、メジャー1年目のキャンプはコロナ禍で、途中で中止となり、筒香は日本への一時帰国を余儀なくされた。

「NPBの所属球団がなく、練習環境が限られた中で、メジャーは労使対立のため、いつ開幕するのか当初は全く見えなかった。ダルビッシュ(パドレス)や田中(当時ヤンキース、現楽天)のようにメジャーで何年もプレーしていれば別だが、筒香は1年目。同じルーキーの秋山(当時レッズ、現広島)とともに人一倍ハンディを背負っていたと思う」(同)

 7月に開幕し、60試合に短縮された1年目は、51試合で打率1割9分7厘、8本塁打と不本意な数字に終わった。

大谷でさえ苦労するMLBのスピード感

 巻き返しを期した翌21年も、開幕から不振にあえいだ。特にてこずったのはメジャーの“速球”だ。5月に最初の戦力外となると、ドジャース移籍後も出場機会を確保できなかった。7月には2度目の戦力外の憂き目に遭った。
 
 投手の平均球速は19年のNPBが144.2キロだったのに対し、20年のMLBは150.3キロで、21年は150.8キロ、今季は151キロを超えたという。

「筒香がDeNAにいた日本より、メジャーは6~7キロ速かったことになる。大谷(エンゼルス)でさえ(メジャー5年目の)今でも、メジャーのスピード感には苦労していると思う。力勝負主体のパ・リーグに対し、筒香は変化球主体のセ・リーグ出身。ルーキー時代から柔軟なバットコントロールで変化球への対応が巧みなバッターだった。メジャーのスピード感に苦労するのは想定外ではない」(同)

 さらに、NPBでは希少な本格派の左投手もMLBでは珍しくない。球速が160キロを超える上、手元で動くこともあって、「見たことがない球筋で、筒香は慣れるのには相当な時間が必要だったろう。仮に慣れても、すぐに相手は弱点を分析してくる。長く活躍するのは至難の業」(同)

 昨季終盤に移籍したパイレーツでは43試合で8本塁打とレギュラーに定着し、契約延長に至った。しかし、今季は開幕から低空飛行が続き、50試合で打率1割7分1厘、2本塁打と浮上のきっかけをつかめないまま、3度目の戦力外に至った。

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