「水曜日のダウンタウン」と吃音差別問題 親交のある車いす芸人・ホーキング青山の見解は

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 何かと話題が多い人気バラエティー番組「水曜日のダウンタウン」(TBS系)が、「日本吃音協会」(NPO法人)に抗議を受けたという件が、一斉に報じられた。

 きっかけとなった同協会のツイッターによれば、

「先日、NPO法人日本吃音協会はTBSに対して7月6日(水)放映『水曜日のダウンタウン』での放送内容に対する抗議文を送りました。

 件の放送内容は、吃音者に対する差別と偏見を助長するものであり、再発防止と番組制作の基準・指針の見直しを要求しました。」

 とのこと(8月1日)。

 ここで協会側が問題だとしているのは、お笑い芸人のチャンス大城が、インスタレスティングたけしという後輩芸人に説教をするドッキリのシーンだ。叱られるたけしがしどろもどろになりながら、吃音気味に返答をする様をお笑い番組で流すのは「差別と偏見を助長する」ということだろうか。

 ただ、この抗議には異論も多い。協会のツイッターには一般の人から「インタレスティングたけしをテレビに出すなというのか」等、批判コメントが多数寄せられている。

 また、R-1グランプリ優勝者で盲目の芸人、濱田祐太郎は、ツイッターで次のように反応。

「バラエティーで障害のことをネタにするとすぐ関連団体が『差別を助長する』と抗議する。

 そうなるとテレビ局やスポンサーは障害者を使うのはやめようってなる。

 当然差別は良くない、だから俺はテレビ局にもスポンサーにも関連団体にも言う。

 障害者にテレビでお笑いをさせないことこそが差別やろう。」(8月2日)

 さらに、自身のYouTubeチャンネルでもこの問題を扱って、障害のある人が過ごしやすい社会を目指すのならば、こうした抗議は逆効果になりかねないことを考えてほしい、と訴えた。

 もちろん協会側は良かれと思って動いたに違いない。しかし、その行動が当事者にとってプラスになるのかは別問題なのだろう。

 車いす芸人としてデビューして28年になるホーキング青山は、著書『考える障害者』の中で、時には「親切な人が壁になる」ことがある、とつづっている。以下、その一部を引用してみよう。

「『障害者が特別な存在』という意識は、何も障害者とあまり接点のない健常者だけが持っているものではない。さきほど、そうした意識の前提には、障害者との接点の少なさがあると言ったが、それに加えむしろ障害者の周囲の人たちの方がよりそういう意識が強い場合も多いのである。これはこれで厄介なことだ。(略)

 結局のところ『特別な存在』である障害者を理解し支えているのは自分たちだけだという思いが、悪い方に作用してしまっているのだろう。そういう思いが、自然のうちに障害者を囲ってしまい、皮肉なことに結果として健常者との壁(バリア)になってしまっているのだと思う」

本人の気持ちはどこへ

 では今回の一件、ホーキング青山はどう見たか。改めて感想を聞いてみた。

「インタレスティングたけしは、後輩芸人で前から仲も良く何度もライブにも出てもらっている関係です。コロナ禍になる前には、彼の地元の千葉で彼が主催したライブにも呼ばれてゲストで出たこともあります。

 今回の番組をご覧になった方ならよくわかるかと思いますが、あのしゃべりなので、彼のキャラクターを知らないお客さんが戸惑うことは珍しくありません。

 もちろん、そこを戸惑わせないようにするのも芸人の腕ではあるのですが、こちらとしてはライブに出てもらう以上はできる限り思いっきりネタをやってもらえるように、オープニングのトークで絡んだりして、あらかじめお客さんに彼のキャラクターを認知してもらうように工夫したりもしてきました。

 今回は、メジャーなテレビ番組にいきなり彼が出てきて、チャンス大城さんに説教される様が流れたため、そのキャラクターを知らない人がかなり衝撃を受けてしまった、という面はあるでしょう。『地下芸人』ゆえにネタや芸風が紹介されないのは仕方がないのですが。

『日本吃音協会』の抗議するスタンスとしては、インタレスティングたけし個人のことを言いたいのではなく、あくまでも吃音者を守るために行っているということなのでしょう。

 ただ、そこにインタレスティングたけし本人の思いは入っているのか、は気になりました。

『吃音者全体をフォローしようとしているのだから、当然そこに彼も含まれている』ということなのかもしれません。

 でも、彼の『芸人』としての思いはどうなるのか? 踏みにじることになってはいないだろうか? ここは気になります。

 また、少し視点を変えれば、彼がさらに活躍すれば吃音者の励みにもなる、という考え方もできるのではないでしょうか? 彼に限らず吃音者や私も含めた障害者はテレビやラジオにはあまり出ませんが、現実の社会にはたくさんいるわけです。そういう人がどんどんメディアに出て来るほうがいいのでは」

 デビュー以来、どちらかといえば障害者団体などの主張とは異なる主張を本音として語ってきたホーキングには、こんな思い出があるという。

「私がデビューしたての頃に、取材してくれたドキュメント番組がありました。この時、私のインタビュー記事を人権団体に読んでもらい反応を見ようとしたスタッフがいたんですね。私の言うことは、必ずしもそういう団体にはウケが良くない話だったので。

 おそらく展開次第では番組内でバトルさせようと思ったのかもしれません。

 しかし、記事を読んだ人権団体の方の反応は極めて冷静で、

『青山さんのおっしゃっていることはよくわかりますが、皆が皆そういう意見の方ばかりではないということだと思います』

 という、まっとうな返事が返ってきたのだそうです。

 バトルは不成立になりました。

 まだ21歳という若さで、私のほうは『けんかでも何でもするぞ!』と息巻いていたのに、完全に拍子抜けしてしまいました。今思うとあちらはめんどくさいけんかなんかしたくなかったんだろうなあと思います。

 今で言うところの多様性という観点でいえば、その時の団体の冷静な姿勢はとても常識的だったのでしょう。

 それと比べると、今回の協会の対応は、いささか勇み足だったかと思いました。

 差別を助長するような行為は決して許されることではありませんが、しかしながらあまりに守ろうとしすぎることで結果的に健常者との壁(バリア)になってしまっては、かえって差別を生むことになってしまいかねません。

 基本的には、芸人であれば、吃音者も障害者も健常者と同じ土俵で評価するべきだと考えます。つまり、面白ければテレビやあらゆるメディアに取り上げられ、多くの人に支持してもらえる。面白くなければどこにも出られない。それぞれが個人の力量で勝負すればいいので、これだけ多様性が叫ばれる中で芸人の世界もそろそろそういう段階にいってほしいと強く思います」

 今回のことで、知名度が急上昇したのは間違いない。芸人、インタレスティングたけしはこれをチャンスとして生かせるかどうか。

デイリー新潮編集部

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