長期厳選投資が社会のためになるという確信――奥野一成(農林中金バリューインベストメンツ常務取締役兼最高投資責任者)【佐藤優の頂上対決】

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 株式投資とは会社のオーナーとなり、会社を通じて社会へ貢献していくこと。その信念に基づいて投資ファンドを運営しているのが、農林中金バリューインベストメンツだ。オーナーシップ精神を広めたいとの思いから、若い世代への金融教育にも力を入れる。投資家が語る「長期」という概念の重要性とは。

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佐藤 奥野さんはもともと日本長期信用銀行(長銀)のご出身です。長銀に加え、日本興業銀行、日本債券信用銀行の3行は長期信用銀行といわれ、戦後の復興期に全国から中央に資金を集め、基幹産業へ融通していた。長銀はバブル期に行った無理な融資がたたり、90年代に経営破綻。とはいえ、先の3行はユニークな存在でした。

奥野 確かに面白い立ち位置だったと思いますね。

佐藤 長銀の破綻後、奥野さんは農林中央金庫(農林中金)に移り、顧客の資産を長期で運用する投資の専門チームを作ります。それがもとになって現在の農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)が設立される。奥野さんのお仕事を見ていると、投資でも、後でお伺いしたい教育への支援でも、“長期”という概念が常に生かされているように思えます。

奥野 おっしゃる通りで、結局長銀でできなかったことを、今やらせてもらっていると思っています。長期信用銀行が目指していたものとは、たとえば、金融機関が融資先企業の財務部長と膝を突き合わせながら、必要な設備投資や、その設備によって事業がどうなるかをとことん話し合う。そのうえで資金を長期で融資して、互いにWin-Winの関係を保っていくということです。現在、私はエクイティ(株主資本)投資をやっていますが、優良な企業に対して本当に長く投資をしています。例を挙げると、大手化学メーカーの信越化学工業さんには10年以上投資しています。長く付き合う中で、社長と目先の株価の話ではなく、「組織横断的な企業の強さ」といった本質的なテーマについて議論する。そこで私たちは「3M(スリーエム)」という会社について話すわけです。

佐藤 ポストイットで有名な世界的化学素材メーカーですね。私は今、カテーテル透析を受けていて、カテーテルを留めるのに使用するサージカルテープが「3M」製です。

奥野 技術的に圧倒的に優れていますよね。「3M」という会社はものすごくイノベーティブな組織で、“15%カルチャー”というのがある。

佐藤 従業員は、業務時間の15%を普段の仕事とは違うことに使ってもよいというルールですね。

奥野 私たちは2012年から10年間「3M」に投資をしてきました。私たちなりに「3M」が企業としてどうして強いのかを考えた仮説もあります。それを『「3M」の研究』というタイトルで三十数ページの冊子にまとめて、信越化学の社長に見せると「面白い」と言ってくれて、「今度は経営企画の人間とも会ってくれ」と……。何が言いたいのかというと、これが長銀のときに私がやりたかったこと。経営者と虚心坦懐に話しながら、金融屋として10年後に向けてその企業をより強くしていくためには何ができるのかを考えていくことです。

佐藤 企業のパートナーとして長期に一緒にやっていくということは、スポーツ選手のコーチみたいなところもあるわけですね。

奥野 そうですね。私たちがやっているファンドのブランド名が「おおぶね」というのですが、経営者も投資家もみんな同じ船に乗っているという意味です。同じ船に乗りながら、社会の問題を解決して利益も上げ、企業を大きくしていこうというコンセプトです。

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