訪韓したペロシとの面談を謝絶した尹錫悦 中国は高笑いし、米国は「侮辱」と怒った

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ペロシは「清の使臣」なのか

――韓国の保守の話に戻ります。彼らは中国が怖いにしろ、親米派ではないのですか?

鈴置:そこが微妙なのです。8月5日、朝鮮日報が興味深い記事を載せました。「陳重権、『ペロシが清の使臣でもあるまいし…尹の電話通話は神の一手』」(韓国語版)です。

 陳重権(チン・ジュングォン)氏は東洋大学(韓国)の元教授。リベラル派ではありますが、文在寅大統領をヒトラーに例えて、同政権の民主主義破壊を痛烈に非難したこともあります(『韓国民主政治の自壊』第2章第1節「三権分立の崩壊が生んだ尹錫悦大統領」参照)。

 そんな骨のある陳重権氏が「尹錫悦大統領がペロシ議長と面談ではなく電話で協議したのは非常にうまいやり方だった」と評価したことを紹介した記事です。

 陳重権氏の論理は「ペロシ訪韓は我々の招待ではないし、米政府のメッセージを持ってきたわけでもない。個人的な側面が強いとの見方もある」でした。ただ今ひとつ、説得力に欠けます。勝手に来た同盟国の高官に会う必要がない――とはいかないのが現実です。

 韓国人の心を強くとらえたであろう説得が別にありました。見出しにもなった「ペロシ議長が清や明の使臣なのか。李朝時代の情緒がまだ残っている」との心情論です。

 明・清の皇帝の使臣が李氏朝鮮を訪問した際、朝鮮王は迎恩門という専用の門で土下座して出迎えるのが慣例でした。米下院議長が来たら大統領があたふたと出迎えるのはそれと同じではないか、と陳重権氏は指摘したのです。

 中国大陸の歴代王朝や、日本の属国の民として生きてきた朝鮮半島の人々に対し「もう、我々は属国ではない」との叫びは、けっこう説得力があるのです。

 米国は「中国と敵対せよ」と無理難題を押し付けてくる――。今、そんな不満を募らせる韓国人には「米国の要求をすべて聞く必要なんかないのだ!」との呼びかけは、ことさら心に染みます。

反中「半導体同盟」の行方

――韓国の保守は日本の保守とは異なる……。

鈴置:日本の保守は米国とスクラムを組んで中国に対抗しようと考える。でも、韓国の保守は必ずしもそうではない。「韓国を窮地に追い込む命令ばかりしてくる米国」への反発もあるし、「中国の冊封体制下でそれなりに安定した時代を送った記憶」もある。

 だから朝鮮日報も完全に米国側に立とうとは言わない。中央日報だって、いつまで中国に突っ張る姿勢を見せるかは分からない。米国から「侮辱」と叱責されることになろうが、尹錫悦大統領が面談を拒否したのも、そんなに不思議なことではないのです。

――韓国人の心情を中国は見抜いている……。

鈴置:もちろんです。1000年以上も宗主国をやってきたのですから、韓国人のメンタリティーは知り尽くしています。今後、「無理難題を言う米国」に対する韓国の怒りをかきたてたり、米国側に完全に付く日本よりもいい待遇を与えておだてたり、手練手管を駆使するでしょう。もちろん「脅し」を織り交ぜながら。

――朴振外交部長官が8月8日から訪中します。

鈴置:中韓外相会談に臨みます。ペロシ議長が韓国を離れた瞬間にこの日程が発表になりました。中国を包囲するための半導体同盟が主要な議題になると思われます。

 米国の要求に応じ半導体同盟に入るが、中国とも協力体制を約束し「反中同盟」を無効化する――といった言い訳を韓国は提示する模様です。中国がそれで満足するかは分かりませんが……。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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