訪韓したペロシとの面談を謝絶した尹錫悦 中国は高笑いし、米国は「侮辱」と怒った
中国に褒められた韓国
――米国も舐められたものですね。
鈴置:ええ。ワシントンポスト(WP)はこの事件を「South Korea’s president skips Nancy Pelosi meeting due to staycation」(8月4日)との見出しで報じました。
「staycation」とは自宅、あるいは近場での休暇を意味します。韓国大統領の家のすぐそばまで米下院議長が来た。というのに、在宅中の大統領は会うのを避けた――とWPは不自然さを揶揄したのです。
フィナンシャルタイムズ(FT)の見出しは「South Korean president snubs Nancy Pelosi as China tension rise」(8月4日)でした。WPの「skip(避ける)」以上に厳しい「snub(無視する)」を使い「中国との緊張激化で、ペロシを無視した韓国大統領」と、より批判的に報じたのです。
中国共産党の対外宣伝紙、Global Timesは「Yoon snubs Pelosi amid regional tensions, as ‘playing high-profile host to US house Speaker risk antagonizing China’」(8月4日)で「よくやった」と韓国を褒めそやしました。
・韓国の大統領はペロシとの会談を避けたと専門家は見る。台湾海峡の緊張を高めたばかりのペロシを接遇すれば、中国と敵対することは明らかだからだ。
・韓国は現時点で中国を怒らせたくもないし、米国と台湾問題で事を構えたくもない。そこで韓国政府は国会議長だけにペロシと会わせた。これは儀典にもかなうし、国益も守る。
韓国は恩人を裏切った
――米国のメンツは丸つぶれ……。
鈴置:米政府は尹錫悦政権に対し相当に怒ったようです。国務省が所管するVoice of America(VOA)は直ちに「韓国よ、舐めるな」と言わんばかりの記事を載せました。
「専門家ら『ペロシ議長が訪韓し「米韓関係拡張」を再確認…尹大統領との会同は不発、中国のためなら大間違い』」(8月5日、韓国語版、発言部分は英語と韓国語)です。
まず、米国の外交専門家らの談話を引用、ペロシ議長のアジア歴訪が米国と、その同盟国にとっていかに重要な動きだったかを強調しました。
そのうえで、韓国を厳しく批判する意見を引用しました。そのひとつ、元国務省政策企画局長のM・リース(Mitchell Reiss)氏の対韓非難発言を翻訳します。
・ペロシ議長がソウルに到着した際に大統領が会わないと決めたのは韓国大統領府の二重の誤りだった。私は米韓関係に対する侮辱(insult)と考える。
・ペロシ下院議長は韓国の外側でその必要があった時、韓国の自由と民主主義を求める人々の声をしばしば代弁し、長きに亘り人権を護持してきた。
ペロシ議長は慰安婦問題でも韓国を応援してきました。あれほど世話になってきた恩人が訪韓した時に大統領が会わないなんて、あまりにひどいじゃないかとリース氏は難詰したのです。「米韓関係に対する侮辱」と言葉を和らげていますが、本音は「米国に対する侮辱」との憤懣でしょう。
なお、もうひとつの「誤り」は中国に対する誤認です。「面談を断った意図が中国をなだめるためであったなら、その効果はまったくない」とリース氏は指摘したのです。
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