訪韓したペロシとの面談を謝絶した尹錫悦 中国は高笑いし、米国は「侮辱」と怒った
N・ペロシ(Nancy Pelosi)米下院議長が訪韓した際、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は面談しなかった。中国の圧力に屈したのだ。「米国回帰」を謳った保守政権が「米中等距離外交」に舵を切った瞬間だった――と韓国観察者の鈴置高史氏は言う。
「招かれざる客」の米下院議長
鈴置:ペロシ下院議長の訪韓に関連し、米政府が怒り出しました。尹錫悦政権に侮辱された、と考えたのです。経緯はこうです。
ペロシ議長はシンガポール、マレーシア、台湾を訪問した後、8月3日夜に韓国を訪れました。下院議長は大統領の継承順位が副大統領に次いで2位ですから、普通なら尹錫悦大統領が会います。
ところが「休暇中」との名目で尹錫悦大統領は面談を謝絶。朴振(パク・ジン)外交部長官も海外出張中だったので、国会議長だけが会談に応じることになりました。
ペロシ議長のアジア歴訪の主目的は、台湾への支持表明です。ロシアのウクライナ侵攻が中国の台湾侵攻の引き金になりかねないと、西側の安全保障専門家は懸念を強めています。
米立法府のトップが台湾を訪問するのは四半世紀ぶりで、中国に対する強力な牽制のメッセージとなりました。当然、中国は猛烈に反発し、台湾周辺で大規模な軍事訓練を実行しました。
ペロシ議長が訪台したその足で韓国に行って大統領と会えば、怒りは韓国にも向きます。韓国も台湾を支持したように見えるからです。中国の顔色をうかがう韓国にとって、ペロシ議長は「はた迷惑な客」であり「招かれざる客」だったのです。
当初、尹錫悦政権は「大統領は休暇中」との言い訳を使って面談を避けようとしたものの、保守から非難が噴出しました。ペロシ議長が韓国の次に訪れる日本も含め、すべての訪問国が政府首脳との会談を用意したからです。
米中双方に誤ったサイン
最大手紙で保守系の朝鮮日報は8月4日の社説「ペロシに会わない尹、米中に誤った信号を送りかねぬ」(韓国語版)で、以下のように警告しました。
・(尹錫悦大統領は)NATO首脳会談の演説では自由民主主義国家の間の協力を強調し「自由と平和は国際社会の連帯によってのみ保障される」と述べた。
・こんな尹大統領がソウルに居るにもかかわらず「事前に了解を求めた」としてペロシ議長に会わないのは、中国の顔色を見たのではないか、との解説も一部にある。文在寅(ムン・ジェイン)政権のように屈従的な姿勢では歪んだ関係が続くだけだ。
目先のことしか考えない外交が米中双方との関係を悪化させる、と痛いところを突いたのです。すると、この記事が載った8月4日の朝、韓国大統領府は「休暇中の尹錫悦大統領がペロシ議長と電話する」と発表、同日午後に40分間の電話協議を行いました。
もっとも、同じソウルに居る2人が電話で話すというのも奇妙な話です。どこかで会えばいいだけのこと。当然、記者はそこを質しました。大統領府は「国益を考えた」と答え、中国に忖度したことを暗にですが認めたのです。
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