「ロッキー」のモデルと呼ばれる無敗の王者「ロッキー・マルシアノ」 23歳でプロ入りした苦労人生(小林信也)
試合後に謝罪
そうした彼の生涯は、ピューリッツァー賞受賞歴のあるジャーナリスト、マイク・スタントンが『無敗の王者 評伝ロッキー・マルシアノ』(樋口武志訳)に著している。デビューから4年半が経ち、連勝記録を37に伸ばした51年10月、元世界王者ジョー・ルイスとの対戦話が持ち上がる。時期尚早と反対するトレーナーをマネジャーのワイルが説得する場面がある。
〈「ルイスのようなベテランは突然衰える」ワイルは言った。「最初に倒さなければ、他の誰かが倒す。ロッキーならできると思う。いまこそ賭けに出るべきだ」〉
当時、ボクサーの報酬は入場料収入の60%を分け合うのが通例だったが、ルイスは「45%」を主張して譲らなかった。マルシアノは「せめて20%」と要望したがマネジャーに説得され、15%の条件で戦った。
強いパンチの応酬となった8回、マルシアノの強烈な左フックがルイスの顔面を捉えた。ルイスは昏倒した。辛うじて立ち上がったルイスにマルシアノは激しく襲いかかった。ロープ際で左アッパー、さらに強烈な右ストレート。ルイスは倒れ込み、ロープの外に飛び出した。少年時代から憧れていたアイドルをTKOで倒し、マルシアノは“偉大な王者を倒した男”になった。だがマルシアノは試合後、「強く打ち過ぎてごめんなさい」と、泣きながらルイスに謝ったという。
それから5試合目、王者ジョー・ウォルコットに挑戦。劣勢だった13回、一発の右フックでウォルコットをマットに沈め、世界王座を奪取する。その後3年間王座を守り、55年9月、アーチー・ムーアに9回KO勝ち、6度目の防衛に成功したところで無敗のまま引退した。
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