「ロッキー」のモデルと呼ばれる無敗の王者「ロッキー・マルシアノ」 23歳でプロ入りした苦労人生(小林信也)

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断たれた野球の夢

 もうひとりモデルと呼ばれるのは主人公と同じ名のロッキー・マルシアノだ。

 実在のロッキーは23年9月、マサチューセッツ州ブロックトンで生まれた。両親はイタリア移民。彼もエリート街道から外れ、不器用に生きる若者だった。野球選手として将来を嘱望されていたが、出てはいけない校外の試合に出たことで追放され、高校を中退。さまざまな仕事を転々とする。調べてみると、49戦49勝43KO、“無敗の王者”の実績やイメージとは対極の無骨さが浮かび上がる。

 少年時代は、当時の世界ヘビー級王者ジョー・ルイスに憧れ、19歳から22歳まで3年間の兵役の間にボクシングを始め、アマチュアで8勝4敗の成績を残した。退役後、23歳でプロのリングに立つ。3回KO勝ちでデビュー戦を飾るが、本人の夢はボクサーでなく、“メジャーリーガー”だった。シカゴ・カブスの入団テストを受け、マイナー球団で約3週間を過ごした。ポジションは捕手。しかし契約に至らず、野球の夢は断たれた。それでやむなく、ボクシングに打ち込む決意をするのだ。

 プロ入り後も、マルシアノの前途は洋々とはいえなかった。ヘビー級としては体が小さい。身長178センチ、体重85キロ程度。リーチも短い。構えも打ち方もぎこちない。運動神経がよさそうなタイプではない。しかし、粗削りなパンチ力だけは群を抜いていた。幸運だったのは、マルシアノが門を叩いたジムのトレーナーが、パンチ力を生かす道を優先してくれたことだ。

 キャリアを積んでも、相変わらずマルシアノへの期待は高まらなかった。

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