「安倍元首相銃撃」に続き「昭恵夫人がSP車で事故」… 要人の鉄道移動を考える

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鉄道警察隊の役割

 鉄道警察隊は、1923年に一部の鉄道職員に警察権が付与されたことに端を発する。1950年には、国鉄用地内での痴漢・すり・置き引き・立入禁止箇所への無断忍び込み・機器の盗難に対応する職員のための鉄道公安職員法が制定された。同法により、映画やテレビドラマでもお馴染みの通称・鉄道公安官が主要駅に配置された。

 鉄道公安職員は国鉄に籍を置きながらも、小型の武器を所持することが認められていた。通常時は警棒だが、VIPの警護や現金輸送といった特別なケースでは拳銃を所持することも許されていた。そうした点にも国鉄に強い公共性が含まれていたことが窺える。

 分割民営化されてJRが発足すると、民間企業の職員に拳銃所持を認められるはずもなく、鉄道の治安を守る役目は各都道府県警の鉄道警察隊に引き継がれる。

 鉄道公安職員を源流とする鉄道警察隊は、あくまでも列車内や駅構内といった鉄道関連施設の治安維持が主目的。彼らの任務は駅構内での雑踏警備、列車内警乗と呼ばれる類のもので、要人警護を担当することはない。

 とはいえ、雑踏警備を疎かにすることはできない。雑踏警備は多くの人が集まる場所での人員整理や交通誘導・案内などをすることで未然に事件・事故を防止する役割を担っているからだ。雑踏警備を怠れば、要人を警護することもままならなくなる。実際、大和西大寺駅前の街頭演説では容疑者の接近を制止できず、その間隙を突かれた。

 街頭演説において、雑踏警備を担うのは基本的に政治家本人の事務所や後援会、所属する政党のスタッフたちになる。首相・元首相・現職閣僚といった大物政治家が演説する際には、警察から人員が派遣される。大和西大寺駅で安倍元首相が演説した際にも、雑踏警備を担当するために警察官が派遣されていた。

 一方、首相や元首相、閣僚などの要人警護は警視庁警備部警護課の職員が担当する。いわゆるSPと呼ばれる警察職員だが、SPは移動中だろうと演説中だろうと要人に張りつき、ひたすら不審者に目を光らせる。

 筆者は15年にわたって政治の現場を取材してきた。15年の間に、首相・元首相の街頭演説に100回以上は足を運び、現場を仕切るSPと何度も対峙してきた。セキュリティに関することなので、つまびらかに語ることはできないが、それらの経験に照らして現職の岸田文雄首相と安倍元首相に張り付くSPの数を比べると、明らかに安倍元首相の方が少ないと断言できる。しかし、それは現職と元職による違いにほかならない。ほかの元首相と比べれば、安倍元首相の警護が軽微とは感じないレベルといえた。

 今回の件を受け、岸田文雄首相は要人警護の見直しに言及した。今後、どのように議論が進むのかは現段階で不明だが、すぐにSPを養成することはできない。とりあえず、大きな選挙は3年ないといわれる。その間、SPの養成が急務となるだろう。

 要人を守るためには、不特定多数の群衆が集まる街頭演説は当然ながら、多くの人と乗り合わせる鉄道の利用をも控えるといった防止措置を講じることになるかもしれない。それは新幹線の利用も例外ではないだろう。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部

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