「2億円超」受領疑惑の「高橋治之」元理事、五輪ビジネスの「裏」を知り尽くした男の知られざる錬金術

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最後に選ばれた知事

 事態はいよいよ核心に近づいてきた。

 肥大化した五輪ビジネスの背後で、高橋元理事のような悪しき人物がうまく立ち回り、不正な余禄を生み、分け合う温床が残されていたのは、残念ながら事実のようだ。

 これまでの取材を総合すると、「組織全体が悪に染まっていた」とは思えない。時代の変化に応じ、組織委員会も電通も、コンプライアンスの意識を高め、公正な運営を心掛けていた。しかし、招致の最終段階で誤った力業を駆使した悪影響が残り、高橋氏のような古き悪しき存在を排除できなかった。

 高橋氏は東京2020組織委員会で「最後に選ばれた理事」と言われている。東京五輪の招致活動に際して、世界陸連のラミン・ディアク会長(当時)関連の会社口座に2億3000万円を振り込み、アフリカ票の取りまとめを頼んだ疑惑がフランス捜査当局の俎上に上がった際、直接的な金銭授受の窓口になったのが高橋氏の会社だったと明らかになっている。招致委員会の支払先として最大の相手が高橋氏の会社で、その額が9億円にものぼることも公になっている。このような疑惑をまとった高橋氏が、正式に「理事」の肩書を与えられていた事実に私は戸惑い、驚いていた。誰がこれを許したのか、その必要がどこにあったのか、なぜ理事就任を組織委員会は阻止できなかったのか?

 一連の不正の背後に誰かがいたのか? その核心は、高橋氏が「借入金の返済に充てた」と説明している1億5000万円の流れを解明することで明らかになるはずだ。すでに東京地検特捜部は、そこにターゲットを絞って捜査を進めていると見ていいだろう。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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