木下優樹菜の「ADHD告白」を精神科医が危惧するワケ “ステマ疑惑”にはどう答えるか
脳の中が混線
また、木下は、動画内でブレインクリニックの資料を広げ、「普通の34歳の女性の脳」と「ADHDである自分の脳」がどう違うかを説明する。
〈ぱっと見ですぐわかるでしょ、なんか全然違う。脳の中が混線? こんがらがっているの。前頭葉が働いてないの。(図の後頭部を指し示し)赤くなっているところ、すっごい発揮しちゃってるんだって〉
その検査はいかなるものか。
ブレインクリニックのHPには、木下が受けたとみられるQEEG検査(定量的脳波検査)について紹介されている。検査費用は1万4300円で、頭に19個の電極を付け、γ(ガンマ)波、β(ベータ)波など5つの脳波を測定し、脳が正常に機能しているかどうか診断できるとのことだ。
さらに、〈従来の精神疾患領域では、医師による問診がメインで、診断基準は医師の経験値や主観に任せるしかありませんでした。QEEG検査は医師の主観に頼らず、可視化されたデータを元に客観的な診断が可能です。〉と、従来の診断との優位性をアピールするような文言が並ぶ。
「脳波の画像はカラフルで、いかにも脳の偏りが分かりそうに思えるかもしれませんが、QEEG検査は一般的に臨床の現場で使うものではありません。ましてや『ここが赤いからADHD』などと診断することに根拠はありません。脳波や脳画像を用いた発達障害の診断は、これから研究が進む分野の1つでもありますが、現時点では根拠はなく、診断に用いることが出来るようなものでは無いということも確かです。そこを誤解すると、間違った診断に繋がる恐れもあります」(松崎医師)
どんな不便を感じるかが重要
それでは、正しい診断はどのように行われるのか。
「ADHDの診断において、もっとも重要なことは、その人が生活の中でどんな症状を感じ、不便な思いをしているか、それが時間の経過とともにどう変化したかを聞き取ることです。主にDSM-5というアメリカ精神医学会が作った診断基準に則り、不注意症状、多動性・衝動性症状の18の項目の中で、いくつ当てはまるかなどを元に診断を行います。補助的に使う検査としては、どういった症状があるかを調べるADHD-RS、CAARSなどの質問紙があります。さらにIQの偏りを調べる知能検査を行うことがあり、てんかんなど別の病気の可能性を排除する目的においては、脳波の検査を行うこともあります」(同)
長年臨床の現場に立つ松崎医師でも、木下が示したようなQEEGの脳波の画像を診断に用いたことは無いという。
「『ここが活発』と一目で分かるような脳波の画像などの方が、一般の方には説得力があるように思われるかもしれません。客観的な材料を元に診断が出来ないのは、ある意味で精神医学の限界かもしれませんが、本人の生活上の困りごとを聞き取るということを中心に診断するということが現時点では研究に裏付けされた最も妥当な診断方法です」(同)
[2/3ページ]