なぜ異常な猛暑でも「夏の甲子園」を強行するのか 球児の健康より「大人の都合」が優先される「無言の圧力」への違和感
様々な経験を
高校球児も「真夏の1ヵ月は野球をしない」と決めることで、どれほど豊かな夏を過ごせるだろうと想像する。野球以外の青春を経験できる。旅行でもいい、ボランティアやアルバイトでもいい、私は高校時代、映画が見たかった、バンド活動をしたかった、東京に行ってみたかった、ガールフレンドが欲しかった(デートがしたかった)、それらすべてを諦めて野球に打ち込んだ。「一途に生きることこそ美徳だ」と信じるしかなかった。実際はどうだっただろう? 高校時代、もっと様々な経験をしていたら、その後の生き方、仕事の幅も広がっていたのではないかと思う。もっと映像に触れる機会が高校時代にあれば、活字でなく、映像の分野で創作活動をしていたかもしれない、とか。だから、いまの高校球児には、野球一本でなく、できるだけ多彩な経験を十代のうちにして刺激を受けてほしいと願う気持ちがある。
私は3年前、夏の大会開催中に甲子園を訪ね、暑さ対策の一部始終を見せてもらった。それは涙ぐましい努力だった。ベンチ裏には複数のトレーナーがスタンバイし、試合前後にはストレッチを指導。試合後、両チームの投手にはマッサージを施す。守備から戻った選手が体を冷やせるよう、凍らせたペットボトルも大量に準備してあった。スタンドの通路には30台のエアコンを増設、応援席にはミスト噴霧器、ベンチには送風機などなど、主催者の「夏に実施する執念」には感服させられた。だが、時期をずらせばもっと安全に開催できるのではないか、との疑問は消えなかった。視察後、スタンドに上がって2試合ほど観戦したが、顔が赤く火照り、いくら水分を補給しても暑さが和らぐことはなかった。
高校生の夏休み、プロ(阪神)が球場を明け渡してくれるこの時期でなければ大会が実施できないという事情もあるだろう。しかし、改めて秋のいずれかの時期、週末を何度か利用して大会を開く相談くらい、できないものだろうか?
火傷するくらいの熱さ
こうした経緯を3年前にインターネットで書いたら、その大会に出場していた選手から電話をもらった。彼は、
「色々対策をしてもらっていたのですが、ベンチ前の手すりにうっかり触ると火傷するくらい熱くて大変でした。あと、練習用に割り振られるグラウンドは対策がされていないので、グラウンドの照り返しが強くて倒れそうでした」
と教えてくれた。晴れ舞台(甲子園)の暑さ対策はかなりされていても、練習場までは手が回らない。やはり、時期をずらすのが賢明ではないかと感じさせられた。
それでも「高校野球は暑い夏だからこそいいのだ!」との根強い意見もあるだろう。私はこの機会に、様々な意見を交わし合うことに意義があると考えている。
最悪なのは、高校野球関係者の思考停止であり、報道規制が敷かれたかのようにタブーになっている高校野球改革議論がこのまま一切されないことだ。
このような原稿を書いていたら、7月27日、画期的なニュースが報じられた。
『日本高野連は27日、全国選手権大会について、将来的に、朝と夕の2部制を含む新しい暑さ対策について検討を始めると発表した。選手、観客の熱中症対策として、甲子園球場のみで1日4試合を実施する現行の方式について、問題点を整理し、議論を進める。大阪市内で行われた第104回全国選手権大会の第3回運営委員会で方針を決めた。』(共同通信)
また日刊スポーツは、次のように、時期の変更にも言及している。
『ナイターについて担当者は「高校生で教育の一環。議論して、そういうことも配慮していく」と言及した。猛暑の季節をずらすほか、他球場使用についても「今後の議論で言えることもあると思う」とした』
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