「会うたびにドラマの話を」 安倍元総理の知られざる素顔を櫻井よしこが明かす

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アメリカ研究の大テーマ

 少し前のことになる。2011年の晩秋、安倍元総理はブッシュ政権とイラク戦争について書かれた『ウルカヌスの群像』(渡辺昭夫監訳、共同通信社)を読んでみるようにと、私に薦めた。

 ウルカヌスとはローマ神話に出てくる火と鍛冶の神の名だ。同書では、ブッシュ政権の枢軸を形成した人物6名、チェイニー、ラムズフェルド、パウエル、ウルフォウィッツ、アーミテージ、コンドリーザ・ライスを総称して使われている。

 ウルカヌスはアメリカこそ世界最強の国であり続け、その民主主義の価値観と理念を世界中に広げていかずにはおかないと決意した人々だった。彼らはそれこそが正しい道だと信じて邁進した。経済を重視したクリントン政権の路線と訣別して、アメリカは世界最強国の力をさらに強化させ、どの国も抵抗できない軍事力の時代に入った。それこそがアメリカにとっての国益であり世界の善なのだと信じたウルカヌスたちは、どんな思想的形成を経てそこに至ったのか。アメリカ研究の大テーマが、6人の言動を通じて生き生きと描かれている。

「台湾有事は日本有事」と喝破

「米国人に薦められて読んだのです。興味深かった。面白くて、そうかと思うことが多かった」

 と、安倍氏は語った。私にとっても非常に勉強になった一冊である。奇しくも日本は民主党政権下で、この書はいわゆるリベラル勢力への疑問の書でもあった。

 武力で中東をおさめようとするブッシュ政権の政策は失敗していったが、ではその後の世界に私たちはどう対処すべきなのか。思想的背骨を失った日本国は答えを出し得ていない。

 そして今、私たちはアメリカを凌駕しようと決意した中国の脅威に直面している。安倍元総理は、中国の脅威こそ歴史上最大のものになると認識し、「台湾有事は日本有事だ」と喝破した。日台の運命は重なるのであり、中国による侵攻の危機は近い。

 誰よりも危機を切迫したものと捉えていた安倍氏の危機意識を肝に銘じ、備えることが大事だ。憲法改正を遂行する強い決意を持つということ、これが岸田政権に残された遺志であろう。

ジャーナリスト 櫻井よしこ

週刊新潮 2022年7月28日号掲載

日本ルネッサンス拡大版

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