静岡県警の捏造?清水郵便局に届いた現金「43200円」と「36歳同僚女性」の謎に迫る【袴田事件と世界一の姉】

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うっかりしゃべった警部補

 当時、Aさんを調べていたのは住吉親(ちかし)警部補だった。実は彼は公判で、彼女との「密約」をうっかり口にしてしまっている。1967年6月、静岡地方裁判所での証人尋問で弁護人の質問に答えたときのことだった。

「その日は、『あんたたちも面子があるでしょうし、私(A)も知らないじゃすまされないんだから、預かったことにするから。これは私と住吉さんだけの2人の話にすれば、他の人にわかるというようなことはない』そういうような供述だったです」

 どう見ても巖さんを陥れるためにAさんが警察に利用されたとしか思えないが、裁判ではそれ以上、真相が追求されることはなかった。警察はなぜ、Aさんのことをでっち上げたのか。

 盗んだ8万円の使途について、飲食などで2万円余を使ったとしたことを飲食店の伝票などで一部裏付けたものの、残る5万円以上の使途が証明できない。困った警察は巖さんについては「持っていたら怪しまれるから知人に預けた」という筋書きに仕立てた。虎の子の強奪金を、短期間の付き合いで、さして親しくない女性に預けるのも不自然なのに。構わず今度は、強奪金を預かったことで罪を問われることを恐れたAさんが偽装して警察署宛てに送った、とした。

 さらに、お札が巖さん逮捕後に印刷されたものだったりすれば、「警察の捏造」が暴露してしまう。そこで製造番号部分を焼いたと考えられる。

 Aさんは、清水郵便局で謎の封書が見つかったとされる翌日の9月14日に、同僚女性を脅したとして逮捕されている。恐喝は別件逮捕でしかない。そして、巖さんに関する「贓物寄贈(不法に取得された物と知りながら所持すること。現在は盗品等関与罪)」の容疑で再逮捕し、取りたい話を取ると早々に釈放した。

渦中の女性に会いに行ったひで子さん

 既に鬼籍に入っているAさんについて、ひで子さんに尋ねてみた。実は3歳ほど年長のAさんに、当時、ひで子さんは会っている。

「事件から半年くらいしてからかな。巖と接見できるようになったら、巖がある時、『Aさんの名前が報道されている。俺のことで迷惑をかけている。お姉さん、謝ってきてほしい』と言われたんです。それで清水市にあった彼女の家まで行きました。最初、居なかったけど、しばらく待つと帰ってきて、喫茶店で話しました。とてもきれいな女性でしたよ」と回顧する。

「報道ではひどい女のように書かれたようですが、全く普通の感じの女性で、おかしな人ではありませんでした。そして最後に『巖さんは殺人なんて絶対にする人ではありません。頑張ってくださいね』と励ましてくれましたよ。会った時にはまだ、巖から金を預かったという話は聞いていなかったので、そうした会話はしなかったですよ。Aさんの裁判での証言は聞いていませんし、お会いしたのもそれが最初で最後でした」と話した。

「一度、刑事が私の所に来て、写真を並べて見せた。Aさんの名前が書いてあった写真を指して、『この人ですよ。きれいな人だった』と言ったことがありますよ」と振り返る。

 静岡地裁で始まった一審の冒頭陳述で検察は「被告人がA(陳述では実名、以下同)に預けた五万円について」としてこう書いてある。

《Aは五万円預かったことを否認しているが9月10日ごろ、警察官が清水署において、五万の金について同所、及び同所の家族を調べた直後、同月13日匿名でシミズケイサツショに対し、「ミソコウバノボクノカバンニナカニシラズニアッタツミトウナ」と書いた手紙と一緒に現金五万七千円が一部焼燬(しょうき)されて郵送されてきたので直に同人方を捜索して筆跡対象資料を得たうえ筆跡鑑定を行ったところ、Aの筆跡と一致したので同女が被告人から五万円を預かり保管していた後警察の調べを受けて贓物寄贈の罪に問われるのを恐れて匿名で郵送してきたことが明らかとなった。》(筆者註:これだけの長文で全く句点がない。最近はましになったが当時の裁判文書は3ページも4ページも文が切れないのはざら。何が主語かもわからず、筆者も記者時代は閉口した)

 さて、巖さんとAさんの親密さを裏付けるとされる犬山旅行だが、同じ布団で寝たことは「酔った勢いでのおふざけ」の域を出ない。ところが、実は警察はここでも巧みに「協力者」を作る。巖さんがAさんの布団へ入った時、別の女性の布団に、もう1人の同僚の男が入ったというのだ。警察はこの「別の女性」が同僚のAさんから脅されたと訴えたことにして、Aさんを別件逮捕したのだ。その後、この女性は警察に有利な証言をしてゆく。

 当初、裏木戸からの侵入が不自然となったため、巖さんが「橋本専務の奥さんと肉体関係があり、奥さんが中から開けてくれた」とし、今度は元同僚のAさんと懇ろだったとし、彼女に絡む人物も取り込んだ。当時、すでに離婚して子供を実家に預けていた巖さんについて、警察が「女癖の悪い男」とした狙いは、単におとなしく真面目な男の世評を貶めるためだけではなかった。

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