国葬の法的根拠、専門家の見解は 政府が難しい判断を迫られる“台湾への対応”
「難しい判断」
では国葬となれば、実際にどんな国の人々が集まるのか。訃報の直後、真っ先に手を挙げたのはアメリカのトランプ前大統領だったが、現職のバイデン大統領は11月の中間選挙を前に劣勢が伝えられ、副大統領か国務長官など政府要人を代わりに派遣する見込みだ。
「西側諸国からは、オバマ元大統領や安倍さんと親しかったドイツのメルケル前首相、フランスのマクロン大統領が来日する可能性も考えられます」
そう話すのは、国際政治学者の三浦瑠麗氏だ。
「長きにわたり首脳会談を開けていない韓国も、歩み寄る好機と捉えて尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が足を運ぶかもしれません。問題なのは中国で、国家主席と同格なのは天皇陛下だけだという認識を持ちがち。習近平氏が参列する可能性は低い。外相レベルの人物が代理として派遣されるかもしれません。日本政府として難しい判断を迫られるのは台湾への対応で、『ひとつの中国』の原則がある以上、私人として台湾関係者の席を用意するのが精いっぱいでは」
すでに台湾からは頼清徳副総統が都内の安倍元総理の自宅へ弔問しているが、中国政府が日本に猛抗議。会見で見解を問われた林芳正外相は、中国の顔色をうかがってか副総統の名前にさえ触れず「ご指摘の人物は私的に訪れたと承知している」と釈明し、あまりに非礼だと批判を浴びた。台湾は東日本大震災の際も被災地への支援を惜しまず、蔡英文総統は安倍政権とも親密だっただけに、岸田総理の対応次第では故人の遺志に反することになろう。
海外から冷ややかな目で見られている日本の警察
さらに厄介なのが、ウクライナ情勢で日本と敵対関係にあるロシアだ。タス通信はプーチン大統領が国葬への不参加を表明していると報じている。
元時事通信モスクワ支局長で拓殖大学特任教授の名越健郎氏によれば、
「プーチンは安倍昭恵夫人と母親の洋子さんに感傷的な弔電を送っていますが、岸田総理には届けていません。ロシアは日本を非友好国として認定しているからに他なりませんが、国交は結ばれていますから最低でもガルージン駐日大使が代理として参列すると思います。目下、中露が日本に軍事的圧力をかけてきている現状では、その間にくさびを打つ外交努力が岸田総理には求められます。国葬をやるからには、アジア太平洋戦略をアピールするような“弔問外交”をすべきだと思います」
日本の面子にかかわる課題もある、と名越氏は話す。
「今回の銃撃事件で日本の警察は海外から冷ややかな目で見られていますから、海外要人に対する警備力に注目が集まるでしょう」
先の三浦氏も、
「岸田さんも慎重派を押し切って国葬にした以上、気合いを入れて取り組むと思いますが、不安要素は警備体制。国の威信をかけて計画を練る必要があります」
来年、地元・広島でサミットを行う岸田総理にとっては、ひと足早くその力量が試される格好である。
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