中国政府は大慌て 都市部「中産階級」の不満はなぜ爆発したのか
中国の今年第2四半期の経済成長率は前年比0.4%増にとどまった。新型コロナの封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策で経済活動が滞り、第1四半期の4.8%増から失速した。政府が掲げる今年通年の成長率目標(5.5%前後)の実現は「風前の灯火」だ。
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中国経済を牽引してきた不動産開発投資(今年上半期)も5.4%減少(前年同期比)した。販売面積の減少率は22%を超え、マンション市場の低迷が長引いている。中国の6月の新築住宅価格も10ヶ月連続で下落しており、深刻化する不動産危機の抑制に向けた政府の取り組みが奏功していないことが明らかになっている。
低迷が続く2兆4000億ドル規模の不動産市場の問題は、金融システムに悪影響が及び、社会不安の火種にもなりつつある。
中国の河南省鄭州市で7月10日、地方政府や金融機関に抗議する3000人規模の預金者が「習近平の『中国の夢』は破れた」「李克強はカネを返せ」などと主張し、抑え込もうとした当局の関係者と衝突して多くのけが人が出る事態となった。
複数の金融機関が預金口座を4月中旬に突然凍結したことが事の始まりだ。これらの金融機関は高い金利で多くの預金者を集めており、凍結された預金総額は15億ドルに上ると言われている。鄭州市の公安当局が金融機関の大株主である投資会社の不正を調査していたことが影響していると言われているが、預金の保護について説明がなかったことから、預金者の不満が爆発した。
今回の問題の根底に不動産市場の低迷があることは言うまでもない。不動産企業に貸し付けた資金が焦げ付いたことから、問題を指摘された金融機関の資金が枯渇し、一般の預金者への支払いができなくなったことがそもそもの原因だ。
中国政府は従来、こうした抗議デモが発生しないように厳しく抑え込んできたが、最近、厳格すぎるコロナ対策への不満や景気減速による経済難などが災いして、各地で抗議活動が起きている。当局はこうした動きの広がりに神経を尖らせているが、気になるのは抗議者たちの要求の内容だ。
預金凍結に反対してデモ行進や集会を粛々と実施していたところに白ずくめや黒ずくめの服を着た暴漢が襲いかかったことから、中国人民銀行鄭州支店前に集結した預金者たちは「暴力で預金者に対応する省政府に抵抗する。人権と法治を要求する」「預金がなければ人権もない」とのメッセージを発するようになったのだ。
「中国人は豊かになっても民主主義や人権に対する意識は低いままだ」と揶揄されてきたが、「虎の子」である自らの財産が奪われるとなれば、話は違う。10年以上前の中国では地方政府が暴力を振るって農民から土地を収奪する事件が相次いでいたが、習近平政権誕生以降はこのような暴力沙汰は鳴りを潜めていた。だが、あろうことか、都市部の中産階級に対してかつてのような暴力事件が起きてしまった。農民とは異なり、中産階級の影響力は大きいため、中国政府は早速事態の収拾に乗り出した。
中国の複数の金融機関で預金が引き出せなくなった問題に関し、中国政府は11日、預金者向けの救済策を発表した。その内容は「15日からまず5万元(約100万円)以下の預金を対象に支払いを始め、5万元超も順次肩代わりをする」というものだ。
社会不安につながる動きを未然に防ごうとする中国政府の真剣さのあらわれだが、頭が痛いのは救済に当たる役割を押しつけられた地方政府の財政が「火の車」だということだ。
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