「ちむどんどん」賢秀だけではない 朝ドラ、ヒロインの“ダメ家族”ワースト5を選出
朝ドラ史上最大の毒父
第3位は記憶にも新しい前作『カムカムエブリバディ』から、初代ヒロイン・橘安子(上白石萌音)の兄・算太(濱田岳)である。そもそもトラブルメーカーで、戦前から周囲との諍いが絶えなかった。14歳で家業の和菓子屋“たちばな”で修行を始めていたものの、サボりや悪事を繰り返し、挙句借金まみれになったこともある。
戦後、戦地から復員して安子と再会したあとのこと。安子の亡き夫の実家である雉真家に居候し、兄妹で力を合わせ“たちばな”を再興させようと奮闘していたものの、その再建資金を持ち逃げし、突然失踪してしまう。理由は、ほのかな想いを寄せていた雉真家の女中・雪衣(岡田結実)に失恋してしまったため。つまり自暴自棄になり二人が稼いだ貯金を持ち逃げして蒸発してしまったのである。
この裏切りは安子と娘・るい(深津絵里)が長きに渡って断絶する遠因になった。42年後にるいと再会を果たした際、自身の死期を悟っていたこともあり、持ち逃げした通帳と10年前に開設して毎月入金していた口座の通帳をるいに手渡し詫びていたが、失踪の真相を語ることなくこの世を去った点もマイナスだろう。
第2位は“朝ドラ史上最大の毒父”と誉れ高いキャラクターだ。『おちょやん』(20年下半期作)のヒロイン・竹井千代(杉咲花)の父・テルヲ(トータス松本)である。そのクズエピソードを挙げていけばキリがない。小さな養鶏場を営んでいたものの、酒浸りで幼い千代に仕事を任せきり。貧乏暮らしが続いていた。そして千代が9歳のとき、後妻ができると邪魔者扱いし、大阪道頓堀の芝居小屋に奉公に出してしまう。
千代が去ったあとも酒と博打で借金を作り続けた。計3度、千代の前に現れている。最初は借金のカタに彼女を身売りしようと画策。トラブルに巻き込まれた千代は道頓堀にいられなくなり、京都へ逃れた。京都で女優として成功すると再び現れ、今度は千代の通帳を盗もうとするのだ。このとき呆れ果てた千代に所持金すべてを投げつけられて絶縁されている。
そして3度目、このときは長年の自堕落な生活のツケで肝臓を患い明日をも知れぬ命となっていた。さらに借金取りから千代を助けるため乱闘騒ぎを起こしてしまい投獄されてしまう。この直後、留置場に接見しに来た千代から今まで受けてきた仕打ちの恨みをぶつけられ、涙ながらに詫びるのだが、結局彼女は許すことはなく、その日の夜に静かに息を引き取った。唯一の救いは最後に千代がテルヲに対し、親子としての関係だけは回復させる言葉を投げかけたことだろう。最後の最後まで娘に迷惑をかけっぱなしの“トンデモ親父”であった。
ワースト1位は…
ワースト第1位は『ちむどんどん』と同じく沖縄が舞台の『純と愛』(12年下半期作)から。ヒロイン・狩野純(夏菜)の父・善行(武田鉄矢)だ。本作は純の祖父が生前、沖縄の宮古島で経営していた魔法の国のようなホテル“サザンアイランド”の再生を夢見た純が孤軍奮闘する……というストーリー。純とことごとく衝突したのが善行だった。もともと大阪育ちの商社マンだったが、仕事に失敗し、宮古島にある妻の実家に一家で転居。不本意ながら義父が経営するサザンアイランドで働いていた。義父亡きあと、社長に就任するも、島とホテルを毛嫌いしていたこともあり、経営は右肩下がりになって負債を抱えるように。困った善行はホテルを売却しようとするが、これに抵抗したのが純だった。
純が手を尽くし、ホテル存続の希望が見え始めた矢先、台風で大打撃を受けてしまう。結局、猛反対する家族を欺いて善行はホテルと自宅を売却。純はショックで一時期自暴自棄な日々を送り、狩野家も一家離散状態になった。
『おちょやん』のテルヲは陽気で朗らかな一面もあったが、善行は性格的にかなり屈折している。客と取引先に対しては腰が低いが、頑固でプライドが高く、卑劣・非情。常に後ろ向きな発言をし、何かにつけて四字熟語やことわざを用いて説教するため、家族から煙たがられていた。最期はあっけなく海で溺れて急死するのだが、その死で一家がまとまりを取り戻したことはなんとも皮肉であった。
本作では他にも性格に難ありのキャラクターが多々登場しているが、そのなかでも善行が発する“負のオーラ”は圧倒的なものがある。“金八先生”で理想の教師像を演じた武田鉄矢がここまでの悪役を演じたことも強烈なインパクトを残しているという点でも忘れがたい。
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