夫婦で「秘密のパーティー」を楽しむはずが… 妻を寝取られた夫が今さら持ち出す“彼女の過去”

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遼太郎さんの分析

 本当はこんなことを思っても言葉にしてはいけないとわかっているけれど、と彼は小声で言った。

「彼女が風俗で働いていたこと、今になって思い出しているんです。実は彼女、肉体的にもかなり成熟していたのではないか。それを自分で封印していたのではないか。だから今になって一気に解放されて、本能に火がついてしまったのではないか、と」

 風俗で働いたことと今回のことは関係ないと思うと、私は少し鼻白んだ。自分が性的に熟していることを隠したくなった原因が、風俗で働いていたからというのは少し飛躍があるのではないだろうか。本人がそう思っている可能性はなきにしもあらずだが、たとえ夫婦といえども他人がそういう指摘をするのは少し違うような気がしてならなかった。

「わからないんですよ、史奈という女性が。わからないけど、今でも強烈に好きなんです。だから悔しいしせつなくてたまらない」

 遼太郎さんは、何か理由がほしいのだと気づいた。彼女が他の男性に走るだけの納得できる理由が。だから過去を持ち出すしかないのだ。

 しばらくたって落ち着いた遼太郎さんは、少しだけ明るい顔になっていた。誰にもできない話を一気にしゃべった疲労感はあるが、やや気が楽になったと言ってくれた。

「やっぱり待ちます、史奈を。僕には彼女しかいないから」

 そこまで愛されている史奈さんが、私には羨ましくてたまらなかった。

 ***

 性的な行為を避けてきた史奈さんを、半ば無理に趣味の世界に誘った結果、彼女の気持ちは移ろいでしまった。挙句、過去を持ち出し、見当違いの“分析”をして自分を納得させる……。一見、謙虚な良き夫のように振舞う遼太郎さんには独善的な面も垣間見える。史奈さんが「変えたかった自分」というのは、そんな夫に付き合う自分だったのかもしれない。待ち続ける遼太郎さんが報われる日は来るのだろうか。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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