「契約の自由」を侵害するNHKの「割増金徴収」 次はネットでも受信料?
世界では広告を流す公共放送がほとんど
受信料判決を批判している法学者・近江幸治も「NHK受信契約の締結強制と『公共放送』概念」で、こう述べている。「情報伝達手段が発達していなかった昭和40年頃までは、確かに、NHKは、国民の文化向上に対する寄与に大きなものがあり、その意味では、『公共放送』としての価値があった。しかし、現代においては、情報伝達手段は拡大し、NHKの唯一性は失われたといってよい。したがって、放送法64条1項(受信料規定)は、その歴史的役割を終えたと評することもでき、その意味では、(受信契約を義務と定めた受信料規定を)訓示規定と解する考え方も不当ではない」。
さらにいえば、近江はNHKが呪文のように唱える「公共性」についても、結局それは「民放ではなし得ない役割を担う」ということだが、今日のNHKに「民放ではなし得ない役割」などあり得るのだろうかと疑問を呈している。
また、NHKは広告を放送していないことをもって公共放送だとするが、世界では広告を流す公共放送がほとんどだ。中国の中央電視台ですら広告で収入を得ているし、BBCも外国に配信するニュースなどには広告を入れている。NHKの当たり前は、世界ではまったく通用しない。
世界の潮流に逆行した改悪法
前田会長が、全国あまねく広くコンテンツを届けるべく、インターネットにコンテンツをアップロードするための「特別な負担金」を徴収できると主張することは可能だろう。だが、放送インフラを維持するための「特別な負担金」を国民に要求することはもはやできない。むしろ、放送から動画配信への転換によって、現在の組織と人員のほとんどが不要になれば、広告とNHK愛好者からの寄付金だけでやっていけるだろう。つまり、かえって「特別な負担金」を徴収する理由がなくなるのだ。
あとは、動画配信に関しては、TVerにでも入れてもらって、広告と寄付と有料動画配信などを収入源として、実入りに見合った規模でやっていけばいい。もはや民放と変わるところはない。GHQ民間通信局が考えていたことが、70年を経て実現することになる。
今回の改正法は、とんでもない改悪法で、世界の潮流に逆行し、NHKがあるべき姿になるのを妨げるものだといえる。NHK自身の個人視聴率調査(2019年)ではNHKの総合チャンネルをほぼ半数の人が5分以上見ていない。総合放送から動画配信へのシフトがとまらず、NHKの地上波総合チャンネルを視聴する日本人がさらに少数派になっていけば、NHK受信料に対する不満は今以上に膨れ上がっていくだろう。その時、この受信料に関する改悪がいかに時代に逆行する、罪の重いものだったかがはっきりするだろう。
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