尹錫悦の「従中」に怒り出した米国 「合同演習」に続く踏み絵は「半導体同盟」
「お坊ちゃまで視野の狭い安倍」
――その警告は韓国人の耳に届いたでしょうか?
鈴置:今のところ、届いていないようです。というか、耳をふさいでいると言った方が正確かもしれません。韓国紙はまだ、「尹錫悦政権は前政権の従中政策を軌道修正した」という虚構に沿った記事を載せ続けています。
チャ教授の寄稿が韓国語版に載った4日後の7月13日、同じ朝鮮日報で鮮于鉦(ソヌ・ジョン)論説委員が「【ソヌ・ジョン・コラム】『イニ』と『晋ちゃん』がドブに放り投げた韓日現代史」(韓国語版)を書きました。
「イニ」「晋ちゃん」はそれぞれ文在寅氏と安倍晋三氏の愛称で、鮮于鉦氏は「幼稚な外交を展開した2人」を揶揄する言葉として使っています。
日韓関係は共産主義に対抗するため両国の保守が協力して維持してきた。しかるに、「お坊ちゃまで視野の狭い安倍」が左派の文在寅と一緒になって関係を破壊した、との分析です。
もっとも、この現実認識は根本的におかしい。韓国は朴槿恵(パク・クネ)政権(2013年2月―2017年3月)と、その後の文在寅政権(2017年5月―2022年5月)下で、離米従中路線を突っ走ってきました(『米韓同盟消滅』第2章「『外交自爆』は朴槿恵政権から始まった」参照)。
第2次安倍政権(2012年12月―2020年9月)当時の韓国は日本が手を携える相手ではなくなっていたのです。鮮于鉦氏の言う「日韓保守の連帯」など、そもそも期待しようがありませんでした。
鮮于鉦氏の主張――文在寅・安倍悪玉論は、要は尹錫悦善玉論なのです。「文在寅と安倍が壊した日韓関係を尹錫悦が修復に走る」との構図で書いているのですから。
実際、サブタイトルに「文在寅と安倍が残した難題を尹錫悦政権が解き始めた」とあります。つまるところ、チャ教授の尹錫悦政権批判への反論なのです。
現実を見れば「日米韓」を壊しているのは「文在寅と尹錫悦」なのですが……。左派と保守の違いはあっても、中国に従順なこの2人こそが、3カ国の合同軍事演習への障害なのです。
日本と同等のスワップが欲しい
――なぜ、韓国人は事実に基づかないことを言い続けるのでしょうか。
鈴置:彼らは自分に都合のいい自画像を、他人も信じるべきだと思い込んでいるところがあります。韓国は嘘でも言い続ければ本当になる社会だからでしょう。
韓国語を学ぶ外国人がほとんどいない時代が長く続いたこともあると思います。韓国は「外」から評価されることが極端に少ない国だったのです。
「韓国が米国側に戻った」との認識を前提に「だから、日本と同等の為替スワップを与えられて当然だ」という主張も登場しました。
韓国経済新聞にオ・ジョングン韓国金融ICT融合学会会長が寄稿した「イエレンの訪韓時に常時スワップを要求しよう」(7月15日、韓国語版)です。イエレン(Janet Yellen)財務長官は7月19日に韓国を訪れています。ポイントを要約します。
・韓国はIPEF(インド太平洋経済枠組み)に参加し、グローバル安保供給網構想での1つの軸として米国の重要な経済安保同盟国であることを示した。米国が推進する対中包囲網戦略で、日本と並び韓国は東アジアの重要な拠点である。
・米国は日本とは無制限の為替スワップを常設で結んでいる。経済が安定してこそ、友邦の役割を果たせる。重要な友好国として日本と同等の常時スワップを要求せねばならない。
米利上げに伴い、韓国では資本逃避が始まっています。韓国銀行もウォン金利の引き上げで対応していますが、この副作用は大きい。
不動産バブルの結果、韓国の家計債務は膨らんでいる。ここに急激な利上げ。借金が返せなくなれば金融システムが痛みます。これはこれで新たな資本逃避の原因になるのです。利上げしても地獄、上げなくても地獄――です。
韓銀はウォン防衛に必死ですが、それにも限界がある。ウォン買いにはドルが必要ですが、現在の外貨準備で足りるかは怪しい。そこで韓国では米国か日本とスワップを結んでもらうしか手がない、との議論が盛んになっています。
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