尹錫悦の「従中」に怒り出した米国 「合同演習」に続く踏み絵は「半導体同盟」
「親米」を唱えながら「従中」を続ける尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権。米国で非難の声があがり始めた。日本にも「甘い顔をするな」と米国からお達しが来るはずと、韓国観察者の鈴置高史氏は読む。
「3NO」を破棄せよ
鈴置:朝鮮半島専門家のV・チャ(Victor Cha)ジョージタウン大学教授が朝鮮日報への寄稿を通じ「尹錫悦政権は、文在寅(ムン・ジェイン)政権の従中路線を維持している」と指摘しました。チャ教授は米国の朝鮮半島問題の権威。米国の韓国観や、対韓政策に大きな影響力を持ちます。
朝鮮日報への寄稿「A Welcome Return to Trilateralism」(7月11日、英語版)は、6月29日のマドリードでの日米韓首脳会談から書き起こします。
5年ぶりに開かれたことは評価するものの、共同声明も発表されないなど内容がなかったと落胆してみせました。そのうえで、北朝鮮の核開発に対する3カ国の協力を情報共有にとどめず、軍事演習まで格上げせよと説いたのです。以下です。
・the three allies should consider more cooperation on missile defense. This should include not just information sharing, but also active exercising that tracks and intercepts a simulated North Korean missile.
まさに、ここが韓国に立ち位置を問うポイントです。岸田文雄首相は「北朝鮮の核実験には、共同訓練を含め日米韓で対応したい」と3カ国合同軍事演習を提唱しました。米国の意向を受けての発言だったでしょう。
ところが合同軍事演習には韓国が及び腰。そこで共同声明に盛り込むべきほどの合意もできず、それなしの首脳会談となったのです。
韓国が3カ国の軍事演習を嫌がるのは、中国と結んだ「3NO」に抵触するからです(「『米国回帰』を掲げながら『従中』を続ける尹錫悦 日米韓の共同軍事訓練を拒否」参照)。
そこでチャ教授は「文在寅政権が中国と約束した『韓米日の3カ国軍事協力への不参加』は無効だと尹錫悦政権は宣言せよ」と厳しく迫ったのです。
・the Yoon government must declare invalid the Moon Jae-in government's promise to China not to engage in missile defense cooperation with Japan and the U.S. trilaterally.
「中国に立ち向かう」は口だけ
――「尹錫悦政権の弱腰」を米国が叱った……。
鈴置:その通りです。尹錫悦氏は大統領選挙戦中はTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)の追加配備などを公約、「中国に立ち向かう」姿勢を打ち出していました。
ところが政権を取った後は、中国に脅され腰くだけに(『韓国民主政治の自壊』第3章第1節「猿芝居外交のあげく四面楚歌」参照)。THAADの追加配備の公約もどこかに行ってしまいました。
在韓米軍基地に配備済のTHAADの運営の正常化も、実現するかは怪しい。文在寅政権は環境影響評価が終わっていないことを理由に、自称・市民団体の基地封鎖を正当化してきました。
基地に勤務する米兵の人権問題を掲げ、米国防総省は韓国に重ねて改善を要求。これを受け、尹錫悦政権は前政権が放棄していた環境影響評価の実施を表明しました。
しかし、自称・市民団体の反対を押し切ってまで「環境に悪影響なし」との結論を出すほどに腰は据わっていないと韓国では見られています。中国からの叱責も怖いのでしょう。基地への出入りを正常化するメドは依然、立っていないのです。
――「米国回帰」は口だけなのですね。
鈴置:口だけです。前政権からの「従中」はいっこうに変わらない。韓国人の中国に対する恐怖心には米国人や日本人の想像を絶するものがあります。
陰で中国の悪口を言っていても、いざとなると中国の言いなりになる――これが韓国人です。「3NO」を破って日米韓の合同軍事演習を実施するなど、とてもできません。
米国のアジア専門家も「尹錫悦政権が本当に米国側に回帰できるのか」とかたずを飲んで見守ってきた。次第に「やはり、従中のまま」ということが分かってきて、米国を代表してチャ教授が韓国紙を通じ「ちゃんと戻って来い」と警告を発した構図です。
もちろんチャ教授の寄稿は韓国語版にも「最終的には韓米日『3カ国協力』に向かうべきだ」(7月9日)の見出しで載っています。
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