米国はロシアとの「新冷戦」に勝てるか 深刻な状況を浮彫りにするシカゴ大「報告書」

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 ロシアがウクライナを侵攻してから4ヶ月が過ぎた。エネルギー大国ロシアが紛争当事者であることから、国際エネルギー価格が急騰し、世界規模でインフレ率が大幅に上昇する結果を招いている。

 中でも天然ガスは最も「ホット」な商品となっている。欧州では昨年初め以降、天然ガス価格が上昇し始めていたが、ウクライナ危機後にロシアから欧州への天然ガス供給に不安が生じたことで欧州の天然ガス価格は昨年同時期と比べ8倍になっている。

 天然ガス価格が急騰したことは足元のロシア経済にとってプラスだが、欧州が2024年までにロシア産天然ガスの輸入を停止する決定を行ったことは懸念材料だ。

 タンカーで輸送される原油は代替市場を見つけることは比較的容易だ。欧州諸国に代わり、インドや中国が割引されたロシア産原油を「爆買い」している。

 だが、パイプラインで輸送されることが多い天然ガスはそうはいかない。代替先の開拓が困難な上に、ロシアから欧州に伸びる天然ガスパイプラインが今後「座礁資産(市場や社会の環境の変化で価値が大きく毀損する資産)」になってしまうことだろう。

 欧州では6月、米国からのLNG輸入量が史上初めてロシアからの天然ガス輸入量を上回るという事態が起きている。欧州向けのガス輸送量が大幅に減少したロシア国営ガスプロムは創業以来最悪の経営危機に直面する一方、米国の今年の天然ガス生産量、液化天然ガス(LNG)輸出量はともに過去最高となる見込みだ。エネルギー価格の高騰は米国の消費者にとって打撃だが、シェールガス産業にとっては好都合だ。

 米国の5月のモノの貿易収支赤字(通関ベース)は前月比2.6%減の1040億ドル4100万ドルとなった。2ヶ月連続の減少だ。輸出が過去最大を記録したのが主な要因だ。輸出は原油や天然ガスなどの需要増のおかげで前月比1.5%増の1771億ドルとなった。国別では欧州や日本向けが拡大している。

 シェール革命により米国はエネルギー大国の地位に返り咲いたが、ウクライナ危機のおかげで今やロシアを抜いて世界最大のエネルギー輸出国となっている。

 ウクライナ危機は米国とロシアの代理戦争の様相を呈しているが、「エネルギー戦争の勝者は米国、敗者はロシア」との評価が固まりつつある。

安定のロシア、混迷の米国

 米国とロシアは外交面でも激しいつばぜり合いを演じている。

 米国はG7諸国とともに「ロシア封じ込め」に躍起になっているが、ロシアはBRICSをテコに勢力拡大に努めており、事前の予想に比べて善戦している印象がある。

「米国とロシアの間で新冷戦が始まった」との指摘が頻繁に聞かれるようになったが、新冷戦の帰趨を制する最大の要素は内政面の安定だ。

 ウクライナ侵攻当初、「ロシアで早晩政変が起きる」「プーチン大統領は深刻な健康問題を抱えている」などの情報が飛び交っていたが、最近は鳴りを潜めている。

 プーチン大統領の支持率は80%を超え、侵攻前よりも高くなっている。少しぐらい生活が厳しくなってもロシア人は我慢強い。強い指導者の下に結集する傾向が強く、欧米から批判されても、プーチン大統領が一度決めたウクライナ侵攻を最後までやり遂げることを望んでいるからだとされている。

 プーチン大統領は子飼いの政権幹部を懐柔しつつ行き過ぎた対立を未然に防ぐことで、政権内の求心力を高めることにも成功しているようだ(7月7日付東洋経済オンライン)。

 プーチン政権の安定ぶりに対し、米国の内政の混迷ぶりは目を覆うばかりだ。

 バイデン大統領の支持率は36%と過去最低水準に近く、国民の70%以上が再選を望んでいない。ギャラップが実施した調査によれば、米国の有権者の議会や大統領に関する満足度は1974年以降の中間選挙の年の平均を10ポイント以上も下回っている。

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