「未来の自衛官」に向けて安倍元総理が語ったこと「『そのとき』に備えよ」【安倍晋三元総理の名スピーチを振り返る(2)】
自身を撃ったのが元自衛官だったと知ったら、安倍晋三元総理はどれだけ強い衝撃を受けただろうか。歴代の総理大臣の中でも、安倍元総理は安全保障への思い入れは強く、自衛隊に対しても深い理解を示していた。
安倍元総理の名スピーチ、演説を振り返る本企画の2回目は、2013年、防衛大学大学校卒業式における内閣総理大臣訓示である。以下、安倍元総理のスピーチ、演説のアンソロジー『日本の決意』の中から全文引用しよう。
(同書所収、「『そのとき』に備えよ」より)
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「そのとき」に任務を全うする
本日、伝統ある防衛大学校の卒業式に当たり、これからの我が国の防衛を担うこととなる諸君に、心からお祝いを申し上げます。
卒業、おめでとう。
諸君の規律正しく、りりしい勇姿に接し、自衛隊の最高指揮官として、心強く、頼もしく思います。
また、学生の教育に尽力されてこられた、國分大学校長をはじめとする教職員の方々に敬意を表します。日頃から防衛大学校にご理解とご協力をいただいている御来賓・御家族の皆様には、心より感謝申し上げます。
本日は、卒業生諸君が、ここ防衛大学校から巣立ち、新たな任務に就く、良い機会ですので、内閣総理大臣、そして、自衛隊の最高指揮官として、一言申し上げさせていただきます。
4年前の1月15日、ニューヨークを飛び立った旅客機が、離陸直後のエンジン停止という最悪の事態に直面し、ハドソン川に緊急着水しました。当時、「ハドソン川の奇跡」とも呼ばれた、このニュースを覚えている人も多いと思います。
最後まで機内に残り、乗客・乗員155人全員の命を守りきった、サレンバーガー機長は、高まる賞賛の声に対して、このように語ったそうです。
「私たちは、日頃の訓練どおりに行動しただけだ」
そこには、功名心はありません。あるのは、ただ、乗客・乗員を断固として守り抜くという、機長としての使命感と責任感です。
かつて空軍のパイロットでもあった、サレンバーガー機長は、こうも語っています。
「すべての人生は、このときに備えるためにあったように思う」
「ハドソン川の奇跡」は、「偶然」の結果ではありません。サレンバーガー機長の、強い使命感と責任感に裏打ちされた、努力と訓練の積み重ねがもたらした、「必然」の結果であったと思います。
一生に一度あるかないかの「そのとき」に、完璧に任務を全うする。
これは並大抵のことではありません。しかし、これから幹部自衛官となる諸君には、その心構えを常に持って、鍛練を積み重ねてほしいと思います。
何よりも、「そのとき」が訪れないようにすることが、日本にとって、最善であることは言うまでもありません。
しかし、万が一の「そのとき」には、国民の生命と財産、我が国の領土・領海・領空を、断固として守り抜く。その責任感を胸に刻み、諸君には、いかなる厳しい訓練や任務にも、耐えていってもらいたいと思います。
今、そこにある危機
日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しています。
諸君が、防衛大学校の門をたたいた4年前とは異なり、我が国の領土・領海・領空に対する挑発が続いています。
諸君が、これから臨む現場で起きていることは、冷厳な「現実」であり、「今、そこにある危機」であります。
今、この瞬間も、諸君の先輩は、荒波を恐れず、乱気流を乗り越え、泥にまみれながらも、極度の緊張感に耐え、強い誇りを持って、任務を立派に果たしています。
私は、その先頭に立って、国民の生命・財産、我が国の領土・領海・領空を守り抜く決意であります。
11年ぶりに防衛関係費を増加します。今後、防衛大綱を見直し、南西地域を含め、自衛隊の対応能力の向上を進めます。
先般のオバマ大統領との会談により、緊密な日米同盟も完全に復活しました。その上で、日米安保体制のもとでの抑止力を高めるためにも、我が国は、諸君とともに、更なる役割を果たしていかねばなりません。
私と日本国民は、常に、諸君とともにあります。その自信と誇りを胸に、諸君には、それぞれの「現場」で活躍してもらいたいと思います。
この場には、カンボジア、インドネシア、モンゴル、大韓民国、タイ、そしてベトナムからの留学生諸君もいます。
諸君は、国の守りを担う、それぞれの母国の宝であることは間違いありません。同時に、我が国にとっても、諸君の母国と我が国とをつなぐ、大切な友情の架け橋であります。
ぜひとも、ここでの学びの日々で育まれた深い絆を、今後とも発展させてほしいと思います。そして、愛する母国に戻り、それぞれの「現場」で大いに活躍されることを、心より祈念します。
泥と、汗と、血と
今日、この場所から、それぞれの「現場」に踏み出す諸君に、最後に、この言葉を贈りたいと思います。
「批評するだけの人間に、価値はありません」
「真に賞賛しなければならないのは、泥と、汗と、血で顔を汚し、実際に現場に立つ者です。勇敢に努力する者であり、努力の結果としての、過ちや、至らなさをも、持ち合わせた者です」
米西戦争において、自ら募った義勇兵を率いて、祖国のため戦場に飛び込んでいった経験もある、セオドア・ルーズベルト元米国大統領は、こう語りました。
卒業生諸君。諸君には、それぞれの「現場」で、自信と誇りを持って、全力を尽くしてほしいと願います。諸君は、国民と国家を守るという、崇高な「現場」での任務に、ひたすらに没頭してください。
御家族の皆さん。大切なお子様を、「現場」に送り出してくださることに、最高指揮官として、感謝の念でいっぱいです。お預かりする以上、しっかりと任務が遂行できるよう万全を期し、皆さんが誇れるような自衛官に育て上げることをお約束いたします。
最後となりましたが、日頃から防衛大学校に御理解と御支援を頂いている御来賓の方々に感謝申し上げるとともに、本日栄えある門出に際し、諸君に幸多からんことを祈念し、私の訓示といたします。
(2013年3月17日 平成24年度防衛大学校卒業式 内閣総理大臣訓示)
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※『日本の決意』でより一部を抜粋して構成。