安倍元総理を失った岸田総理の胸中を読み解く 思い出す「角栄と中曽根」の関係

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「政治はカレンダー」

 1985年2月、中曽根政権下で、当時の最大派閥・田中角栄率いる田中派が分裂し、竹下登が創政会を旗揚げした。直後に角栄は脳梗塞で倒れる。角栄は事実上、政局の表舞台から去ることになった。政権の方針にあれこれ嘴をいれる角栄を排除することができたため中曽根はフリーハンドで政策を進められるようになった…というのはあくまでも後講釈だ。実際には、角栄が倒れたときの中曽根の内心は穏やかではなかったという。当時を知る記者によると、中曽根政権誕生の立役者である角栄は、なくてはならない政権の重しであり、面倒だがどんな文句を言ってくるか予測のつく存在でもあった。角栄が政局の表舞台からいなくなる事態を、中曽根は非常に案じていたという。中曽根と同期当選の角栄ならば対立しつつも気心が知れており、動きが予測できるのに対して、付き合いが浅く何を考えているかわからない竹下は、どう政局に関わってくるかも分からない。思いもよらぬ形で出し抜かれることもあり得る。権力闘争は子どもの喧嘩のように単純なものではないことがよく分かるエピソードだ。

 岸田と安倍の関係も同じようなものだ。

 政策や思想は違うものの、安倍内閣誕生以来、岸田は自民党の一員として一貫して政権を支えてきた。奇しくもこの二人も同期当選で、若いころから気心は知れている。

 ましてや、清和会と並ぶ名門派閥・宏池会を率いる岸田は、政治=派閥間の権力闘争ということを骨の髄までわかっているだろう。

 だとすれば、いま岸田の胸に去来するものは、最大派閥領袖を喪失したことにによる政局の流動化だろう。「政治はカレンダー」という言葉があるように、自らが信じる目標に国をどう近づけていくか逆算することが権力者には求められる。しかし、安倍派内で跡目争いが起きて分裂ということにでもなれば、安倍の存在を前提条件としていた岸田の政治日程に狂いが生じる。政治日程を作れなくなることは、権力者としての失格を意味する。安倍不在の清和会をどう扱うかで岸田政権の命運は大きく変わることになる。安倍不在で唯一のキングメーカーとなった麻生太郎・副総裁の動向も気になる。

 2022年は、21世紀最大の激動の年となった。

 ロシアのウクライナ侵攻は国際政治のバランスを壊し、7月8日の安倍暗殺は自民党内の権力バランスを今後大きく揺るがすことになる。

 ある自民党議員は言う。

「集団指導体制なんて言っても、西村さんと世耕さんの言うことが違うなんてことが今後必ず起きる。これまでは安倍さんのことだけを見ていればよかったのに…今後どうやって最大派閥に向き合うのか、岸田さんの頭の中はそのことでいっぱいだろう」

武田一顕(たけだ・かずあき)
元TBS北京特派員。元TBSラジオ政治記者。国内政治の分析に定評があるほか、フェニックステレビでは中国人識者と中国語で論戦。中国の動向にも詳しい。初監督作品にドキュメンタリー映画「完黙 中村喜四郎~逮捕と選挙」。

デイリー新潮編集部

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