“イチローを超えかけた男”根鈴雄次が明かす、“ラオウ”杉本裕太郎を本塁打王に導いた「逆転の発想」

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“根鈴の矯正”で大不振から復活

 4月22日の時点で、打率が「背番号99(9分9厘)に並んだことも覚えています」と苦笑いで振り返っていた杉本だが、5~6月のセ・パ交流戦18試合で、打率.391の首位打者。6月は打率.282、5本塁打、15打点で月間MVPにも輝いた。

「縦振りで、無駄な動作がなく、周りから見たら、なんかゆったり、強く打とうと思ってねえのか、という感じからバチッ、あっ、打球強いわ、くらいのイメージですね。ホームランとかはいいから、去年と同じ方式。十分過ぎるくらいに出力はあるから、ボールにしっかりとコンタクトすれば、あとはボールに聞いてくれ、みたいな。その方式ですよ」

“根鈴の矯正”で、一時の大不振を乗り越え、ラオウらしさを取り戻してきたのだ。

「ボールを捉えるとき、日本ってよく『おりゃー』って(力いっぱいに)やるじゃないですか? それがアカンのです。ガン、ズボッ、で、そこから先ははっきり言って、どうでもいいんです。練習で、遠くへ飛ばそうと思って、ここの(コンタクトからフォローの)ブーンというのを強調しちゃう。それはダメ。くそアッパーの状況で、自分の力を入れてちゃダメなんです。振ろうとしちゃダメ。ラオウさんも、言えばすぐに思い出すんですね。『あ、そうだ、落とすだけなんだ、振っちゃダメなんだ』って」

 根幹は、実にシンプル。ただそれが、日本の“これまでの基準”とは、全く対極にある理論だというだけなのだ。

 まさしく、逆転の発想。根鈴が、自らの打撃理論をまとめた著書「MLBでホームラン王になるための打撃論」(竹書房)は、杉本もところどころに付箋をつけ、熟読したという。

 変わったことをしているのではない。“世界基準”に合わせたことで、ラオウは目覚めたのだ――。

喜瀬雅則(きせ・まさのり)
1967年、神戸市生まれ。スポーツライター。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当として阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の各担当を歴任。産経夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。産経新聞社退社後の2017年8月からは、業務委託契約を結ぶ西日本新聞社を中心にプロ野球界の取材を続けている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)、「不登校からメジャーへ」(光文社新書)、「ホークス3軍はなぜ成功したのか」(光文社新書)、「稼ぐ!プロ野球」(PHPビジネス新書)、「オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年」(光文社新書)。

デイリー新潮編集部

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