歯磨きから家事まで家庭内の「習慣」を進化させる――掬川正純(ライオン代表取締役 社長執行役員 最高経営責任者)【佐藤優の頂上対決】

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セルフケアを推進する

佐藤 この「オーラルヘルス」はどう進化させていくのですか。

掬川 これまでは歯磨き習慣を作ることでしたが、それを「予防歯科習慣」へと進化させていきます。

佐藤 そうなると、歯科衛生士の重要性が増してきますね。

掬川 ええ、普段の歯磨き指導は、歯科衛生士の仕事です。弊社には「ライオン歯科材」という関係会社がありますが、ここは主に歯科医院で販売される歯ブラシや歯磨剤などのオーラルケア製品を製造・販売しています。ここでもう一つ取り組んでいるのが、歯科衛生士が来院者に「セルフケア指導」できるように情報提供することです。

佐藤 都市部において歯科医院は競争が激しくなる一方です。治療はもちろん、予防でも人を集める必要がある。

掬川 おっしゃる通りで、いま歯科医院は全国に6万8千院くらいあります。ムシ歯の治療だけでは、経営的になかなか成り立たない。LTV(顧客生涯価値)を上げていくには、一つは審美歯科、もう一つは予防歯科に拡充していくことだと思います。

佐藤 審美から予防へ、予防から審美へという流れもできるでしょうね。歯の矯正もホワイトニングも印象を良くするという点では同じですから。

掬川 そうですね。予防という観点からいえば、定期的に同じ歯科に行って診ていただくのがいい。掛かりつけの歯科医院を作っていただきたいですね。一方、私どもは個人の方々の生活習慣や歯磨き行動データなどを収集し、ご自身の口腔健康状態やライフスタイルに合わせたセルフケア習慣を支援する事業を目指しています。

佐藤 それはどのような形でやるのですか。

掬川 今年から熊本県合志(こうし)市で、市と連携した社会実験を進めています。地域の歯科関係者の方たちにもご理解をいただきながら、住民の方々の口腔健康状態や生活習慣などに関するデータを集め、定期的な歯科検診受診を促すとともに、私どもはカスタマイズしたセルフケアの情報を一人ひとりにお届けしています。

佐藤 歯磨き習慣データはどのようにして集めるのですか。

掬川 現時点ではまだ社会実験における検証段階なので、当社が保有するハグキチェッカーなどの画像解析ツールやウェブアンケートなどを組み合わせてデータを集めています。また今年から、全国の企業や健康保険組合様向けに、健康経営の一環として、歯とお口の健康やセルフケア方法などについて情報提供を行うセミナーも始めました。有償ですが、お金をいただくのが目的ではありません。その企業の従業員の方々の年代、関心事に合わせた、わかりやすく楽しいコンテンツの提供と、学んだことをすぐに実践できるセルフケアグッズの配布を組み合わせ、従業員の自発的な行動変容を促す、歯とお口の健康教育を支援させていただいています。こうした活動を通じて得た新たな知見をもとに、合志市で進めているような社会実験をさらに発展させていきたいのです。

佐藤 自治体や企業からアプローチしていくわけですね。

掬川 日々忙しい生活を送る皆さんに、いきなり「歯医者さんに行きましょう、ライオンはこういうお手伝いをします」と言っても、なかなかできないでしょう。ですからさまざまな接点を作り、そこから進めていこうと思います。

佐藤 岸田政権の「骨太の方針」でも「国民皆歯科健診」が検討されることになりました。追い風になりそうですね。

掬川 オーラルケアにおいては大きな前進です。そこで収集されるデータと私どもの歯磨き習慣のデータが合わさると、非常に有益な、使い勝手のいいデータべースができあがると思いますね。

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