歯磨きから家事まで家庭内の「習慣」を進化させる――掬川正純(ライオン代表取締役 社長執行役員 最高経営責任者)【佐藤優の頂上対決】

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口の中の状態と健康

佐藤 歯ブラシ、歯磨きもまた、習慣の商品です。

掬川 口腔内の状態は、体の健康と非常に強く関わっています。ですから常にメンテナンスしておくことが大切です。1日2回の歯磨き習慣は、50年くらいかけて2割から8割まで増加しました。また、歯ブラシを1カ月ほどで取り替えていただくことも、ある程度浸透してきました。

佐藤 いま、ドラッグストアに行くと、歯ブラシのバリエーションがすごいですね。

掬川 人それぞれの口の物理的な形態や状態、年代などがありますから、それに合った歯ブラシを選んでいただきたいのです。弊社では、年代別に「クリニカ」「システマ」「デントヘルス」のブランドで、それぞれ歯磨きや歯ブラシ、洗口液などの製品を展開しています。

佐藤 どんな特徴があるのですか。

掬川 「クリニカ」は入口のブランドとして子供から若い世代までがターゲットで、ムシ歯予防に主眼を置いています。「システマ」は40代からシニア向けで、歯周病の予防が中心です。そして「デントヘルス」は、その上の50代、60代を想定した商品で、その世代は歯茎が弱ったり、歯周病が進行したりしていることが多いですから、予防に加えて対症療法的なラインナップもそろえています。また、少し前の2017年には20代を対象に口臭対策を施した「NONIO」ブランドも作りました。

佐藤 細かくターゲティングがなされている。

掬川 ただバリエーションが広がりすぎて「どれを選んでいいかわからない」という声もよくいただきます。ここは私どもの努力不足のところで、どういう選び方をすればいいか、その情報をきちんと届けていかなければならないですね。

佐藤 私は3月に前立腺がんの全摘手術をしたんです。その前日は口腔外科で診察を受けました。そこでは二つのことを調べたのですが、一つは麻酔の管を口から入れるので、折れそうな歯があるかどうか。もう一つは歯垢や歯石がたまっていないかどうかで、何かの拍子に麻酔の管とともに雑菌が入り術後肺炎を起こす可能性がある。幸いにも私は、2カ月に1度、歯医者でクリーニングしていますから、いい状態だと言われましたね。

掬川 2カ月に1度は、優等生ですよ(笑)。

佐藤 口腔内の状態と体の健康との関わりは、どのくらい解明されているのですか。

掬川 10年以上前から研究が行われていて、歯周病に罹患されている方は、そうでない方より心臓病や脳溢血のリスクが高いというデータがあります。また歯がほとんど残っておらず、義歯も使われていない方は、20本以上ある方より認知症の発症リスクが最大で1.9倍になるという研究もあります。ただしこれらは疫学調査で、相関があるから因果関係があるとはいえません。いまはそのメカニズムの解明が進みつつあるところです。

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