浮気相手との「ウェディング写真」がバレて自殺未遂 43歳男性が情けなくなった“自分の性格”とは

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妻には見捨てられ、不倫相手からは逃げられ…

 彼は彼で、ずっとがんばってきたのに何も報われなかったという思いがあったのだろう。母親に認めてもらえなかった気持ちも引きずっていたはずだ。自分の「流されやすい性格」もわかっていたが、どうしたら自分の意志がもてるのかがわからなかった。たとえ自分の意志をもったところで、それが通る経験もしたことがなかったのだ。

「美結に『うちは破綻するよ』と言ったら、『冗談だったのに』って。冗談ですることじゃないだろ、オレはきみの願いを叶えたのにと泣きそうになりました。『だったら断ればよかったでしょ』と軽く言われました。そうですよね、写真は撮りたくない、撮らないと言えばよかっただけ。でもそれが言えない。自分で自分が情けなくなりました」

 美結さんは黙って連絡を断った。結局、そういうことになるんだと彼は美結さんを恨んだ。恨むと同時に消えたくなった。鞠子さんからは離婚を迫られていた。

 そして彼は心療内科にかかり、ためた薬を煽ったのだ。自宅で吐きながら寝ている彼を見つけたのは長女だった。賢い長女はすぐに救急車を呼び、彼は助かった。

「病院で目が覚めたとき、妻が顔を覗き込んでいました。『生きていたのか』と思わずつぶやくと、『死ねなくて残念だったね』と。でもその言い方が温かかったんです。鞠子はやっぱりいい人だなと思いました」

娘には「僕のような人生を送らないで」

 それから3年、今、彼は主夫として生活しながらアルバイトをしている。鞠子さんは本当は離婚したかったようだが、彼を見捨てなかったのだ。

「夫婦としては破綻していると思います。鞠子がフルで仕事をすれば母娘3人、暮らしていけるから離婚も視野に入れていたでしょう。でもそうすると子どものめんどうを誰が見るのかということになる。『あなたは父親としては悪くない』と鞠子に言われました。だから主夫になってもらえないか、と。僕もそれがいいと思った。祖母に食事を作っていたこともあったし、母が料理をあまりしない人だったから、僕は料理は作れる。他の家事もなんとかできる。鞠子には迷惑をかけたから、なんとか恩返しができればいいなと思っています」

 主夫の仕事も大変だが、娘ふたりは彼の料理が気に入っているようだ。ちゃんとした親子関係を築けなかった彼だが、娘たちとは今のところ仲がいい。自分を振り返って、娘たちの意志を確認することだけは怠らないという。

「僕のような人生を送らないでほしい。自分の気持ちをきちんと伝えられる子になってほしい。本当は僕より鞠子が育てたほうがいいと思うけど、今はやむを得ない。正直言うと今も消えたい気持ちがあります。でも消えたら娘たちに対して無責任ですから、なんとか踏みとどまっている感じですね」

 どこかで気持ちをリセットしたほうがいいのはわかっているが、今はそうする時期ではないのだろうと彼は言った。どこか頼りなげな雰囲気の勇喜さんが、どうしたらこの先、希望を見つけながら生きていけるのだろう。同情しつつも、あまりにも流されてしまう彼のありようが理解しづらくもあった。

 ***

 勇喜さんは、かつての母のような冷たい態度で自分の子に接することはしていない。「僕のような人生を送らないで」という言葉は自己肯定感の低さゆえともとれるが、流されがちな彼には珍しい、明確な意志表示ではある。もし美結さんのような強引な女性が、再び目の前に現れたらどうなるのか。家族への思いで、流れさずに踏み留まれるのだろうか。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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