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「暗記」ばかりの数学教育

 もう一つは台形の面積公式である。よく知られているように、

面積=(上底+下底)×高さ÷2

 である。これも算数で習うので、これだけ暗記している子ども達でも、台形の図が示されると面積を求めることができる。ちなみに、この公式を導き出すプロセスを述べると、台形の中に対角線を1本引くのである。それによって、

上底を含む三角形の面積=上底×高さ÷2

下底を含む三角形の面積=下底×高さ÷2

 となる。そして、それぞれの左辺と右辺を足すことによって、台形の面積公式が導かれる。

 1本引いた対角線は補助線であるが、そのプロセスを理解していると、複雑な形をした多角形の土地の面積を考えるときも、次のように考えればよいことに気付く。それは、多角形の頂点と頂点を結ぶ補助線を何本か引いて、いくつかの三角形に分け、それぞれの三角形の面積を求めて、それらの合計を計算する。

 上で述べたことは、算数ばかりでなく、中学や高校や大学の数学でも同じで、理解するからこそ、応用することができたり新しい発想を生んだりすることができるのだ。

 ところが現実は、デイリー新潮に載せた拙文「算数教育の危機『2億円は50億円の何%?』大学生の2割が間違えるという現実」(2019年7月24日配信)でも述べたように、あまりにも暗記だけの学びが浸透し、少し時間が経つと何もかも分からなくなってしまう若者を育ててしまっている。

 実際、筆者は来年の3月で定年退職となり、大学教員生活45年が終わる。そのうち24年間は理学部数学科で、残りは文系が中心の学部(学類)で、兼任した非常勤講師を含めると大学生1万5千人を教えてきたことになる。さらに、全国の小・中・高校での出前授業でも1万5千人を教えてきたことになる。現在の桜美林大学は「学而事人」(学びて人に仕える)の精神を柱としていることもあって、筆者は就職委員長時代に算数・数学が苦手な学生対象の「就活の算数」ボランティア授業を行ったり、現在でも専門の数学や教職数学の他に、算数・数学の基礎的な発想の授業も行ったりしている。

 そのような基礎的発想の授業で、とくに真面目な学生からの感想に「高校までの学校教育の算数・数学では、やり方の暗記だけで学ばされました。理解できるように説明していただいたのは初めてで、そのプロセスの部分が面白く思います」という感激したものが目立つのである。だからこそ、筆者のゼミナールには数学が苦手な学生も多く集まる。今年のゼミ生は19人で、「理解の算数・数学の学びを広めるためには、自分達も頑張ります」と異口同音に言う。

 一方で昨年、コロナで中止になってしまったが、某県で算数から高校数学までの教員対象の大きな講演会に筆者を招いた背景には、「暗記だけでなく理解を大切にしよう」がテーマにあった。また、大学教育の現場でもこの問題は無視できない課題となり、筆者は理系の某大学のFD(Faculty Development)に招かれて講演したり、文系が中心の某大学の学長自らが対策を相談しに来られたりもした。

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