元極道YouTuberが振り返る「ヤクザを辞めた日」 公共料金すら支払えない困窮と母の愛
「Vtuberって知ってる?」
とはいえ、もう背に腹は代えられなくなってきた。そんな絶妙なタイミングで原発事故が起きて、福島の除染ビジネスが舞い込んできた。シャバに出てから初めて余裕を感じられた時間でした。
といっても、半年で数百万円が稼げたくらいです。地元に戻ってきて、向こうで得たノウハウを生かして建設会社でも立ち上げようと考えて、建設業をやっていた友人に相談しましたが、「ひ孫受けの協力会社の平社員からだな」と言われて愕然としました。
見通しがすべて甘かった。ヤクザ時代に唯一身につけられたのが、コミュニケーション能力でした。昔から口達者で腕っ節より弁が立った。それだけでチンピラとして何とか30年やってこられたんです。そんな自分に妙な自信を持っていた。でも、完全に打ちのめされた。誰からもそんな能力を必要とされていないんです。ああ、このまま朽ちていくんだって。
そんな時に、30歳近く離れた大学出の男の子から、話しかけられた。
「ねえ、おじさん。Vtuberって知ってる?」
いま私と番組を一緒に作っている「俺太郎」という漫画家です。親友の甥っ子で、私にとっても幼い頃から馴染みの子でした。彼が自分の描いた絵でVtuberに参入したいと考えていたのですが、「遅かったなぁ。1000人突破して、すべてのキャラが埋まっちゃったんだよ」って悩んでいたのです。
気づいたら、こんな答えを返していました。
「でも、刑務所帰りのヤクザもんってキャラクターはいないだろう?」
喋り続けることが親孝行
それが「懲役太郎」の誕生です。漫画家と元ヤクザ者がタッグを組んで、番組は立ち上がりました。私の仕事は、極道の世界で見てきたこと感じたことを、ただひたすら喋るだけ。俺太郎はプロデューサー兼管理者。私は演者。何か教えてくれるような先達もおらず、たった二人だけで、見よう見まねからのスタートでした。
私みたいな者にも人様に伝えられることがあると気づいた。例えば、留置場、拘置所、刑務所の違いとか、起訴、不起訴、起訴猶予の違い。もちろん法学部を出ている方の方が詳しく説明できるでしょう。でも、塀の向こうがわに堕ちた立場から見た実情を説明できる人はなかなかいません。それをヤクザ時代に磨いた喋りで、面白おかしくコンテンツに仕立てる。気づいたら5年目を迎え、登録者数も42万人を超えるまでの支持をいただけるようになりました。
もう他人を利用してお金を得る暮らしにだけは戻りたくない。だから、一生懸命頑張っています。過去の切り売りだけではネタが持ちませんから、時事ネタも勉強する。視聴者コメントも全部に目を通しています。
夢は100歳まで喋り続けること。両親も毎日動画がアップされるのを楽しみにしてくれています。YouTubeは私にとって親孝行の場でもあるのです。
[3/3ページ]