「アベなきキシダ」なら騙せるはずが… 韓国は安倍元首相死去で右往左往
改憲を宣言したキシダに驚く
――「韓国とタッグを組んだ外務省」の騙しを阻んできた安倍元首相が逝去したので……。
鈴置:「しめた!」と韓国の外交専門家は小躍りしたのです。もっとも、直後の参院選で大勝した岸田首相の会見(7月11日)を見た韓国人はショックを受けました。
憲法改正に前向きな「改憲勢力」が、国会発議に必要な3分の2を参院で維持したことを受け、岸田首相が「できる限り早く発議に至る取り組みを進める」と表明したからです。
自民党は改憲の目玉の1つに「自衛隊の明記」を掲げています。驚いた韓国各紙は、社説で一斉に日本の改憲を批判し牽制しました。
東亜日報の「岸田首相『できるだけ早く改憲』、まずは『平和離脱』への懸念を払拭せねば」(7月12日、日本語版)のポイントが以下です。
・日本の平和憲法の改正は保守右派が推進してきた長年の課題だが、岸田氏はこれまで改憲推進に慎重だっただけに、改憲加速化の発言は注目される。世界的な新冷戦の激化とともに右派の象徴である安倍氏に対する追悼ムードが加勢し、今以上の改憲の好機はないと見ているようだ。
・直ちに憲法9条改正の議論に弾みがつくだろう。自民党は、「武力行使の永久放棄、陸海空戦力不保持」を規定した9条を維持しながらも、「必要な自衛措置」を掲げて自衛隊の保有を明記する案を推進する方針だ。
・さらに、事実上の先制攻撃が可能な「敵基地攻撃能力」の保有を公式化し、防衛費を国内総生産(GDP)の1%から2%に増額する案まで推進すれば、日本は「戦争のできる国」を越えて「世界第3位の軍事大国」に変貌することになる。
謝罪しない日本に改憲は許さぬ
――韓国は北朝鮮に対抗するため、日米韓の軍事協力強化に合意しています。
鈴置:尹錫悦大統領は6月29日の3カ国首脳会談で「北朝鮮への核・ミサイルへの対応で、韓米日の安保協力の水準を高める」と約束したばかりです。
これもあって韓国政府は“準同盟国”日本の軍事力強化に文句は言いにくい。でも韓国人とすれば、せっかく経済力の伸長をテコに軍事費が日本と同水準となったのに、再び「日本の下」に立つのは面白くない。
韓国の軍事費はGDPの3%前後の水準で推移してきました。韓国のGDPは日本の3分の1程度まで追い付いてきましたから、GDPの1%前後の日本の防衛費とほぼ同じ額に膨らんだ。
「この調子なら追い越せる」と喜んでいたところだったのに、日本が防衛費を2倍に増やせば、また、引き離されてしまう。
21世紀に入って以降の韓国の異様な対日強気外交は、「もう、国力で日本に負けていない」との自信から来るのです(『韓国民主政治の自壊』第4章第3節「ついに縮み始めた韓国経済」参照)。
――では、どういう理屈で日本の軍拡に反対したのですか。
鈴置:「日本は謝罪していないから」との理屈を持ち出しました。東亜日報のその部分が以下です。
・日本の軍事強国化は、周辺国の警戒心を刺激するほかない。帝国主義侵略の歴史を持つ日本が、第2次世界大戦の敗戦後に経済的繁栄を成し遂げることができたのは、憲法9条が象徴する「非武装平和」を受け入れたからだ。過去の反省と謝罪がない日本が再び軍事大国に浮上することに対して、周辺国が懸念するのは当然だ。
・日本は歴史を直視するどころか回避することに汲々としている。右傾化への疾走の前に平和に対する信頼から築かなければならない。
朝鮮日報の社説「安倍元総理死亡で強まる日本の『平和憲法』改定への動き」(7月12日、韓国語版)も、同じ理屈で日本は改憲すべきではないと主張しました。
・日本は侵略の歴史に対し、被害国の許しと信頼を勝ち得ていない。反省と謝罪の表明が十分でないうえ、一部の政治家の歴史に関する暴言と攻撃的な言動も続いている。
・日本が隣国の最小限の共感も得られずして平和憲法をむなしいものにしようと熱中すれば、その反作用も避けられないだろう。
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