九州では「バリ固」を注文する人は少ない? 権威が作った流儀が横行するグルメ界の空気感(中川淳一郎)

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 博多系のラーメン店は全国各地に存在しますが、地元以外の人は麺の固さについて「バリ固」を頼むのが通だと思っているように思えます。東京や大阪で博多ラーメンの店に行くと多くの人が「バリ固」を注文する。しかし、バリ固って別においしいわけではないと思うのですよ。

 私は現在佐賀県唐津市在住で、九州ラーメンの店によく行きますが、地元の人はバリ固なんてあまり頼みません。単純に「固いよりやわい(柔らかい)方がおいしいでしょ?」や「バリ固って消化に悪くない?」と思っているから。だから「普通」を頼む人が多い。

 それなのに、東京の博多ラーメンの店に来る客は「バリ固」を注文し、福岡や佐賀に来てもラーメン店に行くと「バリ固」を注文する。あのさ、常識的に考えて生煮えの麺っておいしいの?と私など思うのですよ。どう考えても、ゆで時間が少ない固い麵って消化にも悪いですし、固過ぎる。

 福岡・佐賀の店主は「観光客の皆さんは『バリ固』が好きなようなので出しますが、正直『バリ固』ってそこまでおいしいとは思えません。さらに数秒だけお湯に入れる『粉落とし』なんて、ラーメンのおいしい食べ方とは思えません」なんてことも言います。

 なんなんですかね、この「麺は固ければ固いほどいい」という風潮。私も当然「バリ固」は食べたことはありますが、「こりゃ、固過ぎるわ……」と思い、以後「普通」にするようになりました。

 あくまでも権威が述べた「バリ固を頼むことこそ通である!」といった言説に従っているだけでしょう。しかしながら、九州の人間からすると「バリ固」は「まぁ~、アリといえばアリですが、まぁ、私は『普通』でいきますかね……」と途端に歯切れが悪くなる。

 食に関しては権威が作った流儀が横行する空気感があります。たとえば、グルメ漫画「美味しんぼ」では企業名を名指しはしていないものの「味の素」と「ドライビール」を徹底的に批判しています。

 しかし、正直、私のような素人料理人からすれば味の素は日々の料理をとんでもなくおいしくしてくれます。アサヒスーパードライだって、今となっては一番好きなビールになっています。

 権威とされて祭り上げられた人々は自身の思想に従ってさまざまなものを批判し、それらを礼賛する人間をバカ扱いしますが、スーパードライが好きで味の素を使う人間を徹底的に「バカ舌」扱いするってどうなんですかね?

 微妙なダシの味が分かる人間こそ至高!的論説はありますが、別に味の好き嫌いなんて個々人の好みの差でしかないでしょ? 本当に私は「レッテル貼り」ってヤツがとことん嫌いです。なんで「○○を使うヤツはバカ」「〇〇を料理に使うヤツは味音痴」なんてことを勝手に決めつけるのか。

 いい加減にしろ。権威どもが勝手に決めたことに従ってきた日本、別にこの30年何も良くなっていないでしょ。だったら権威が言うことには反発していいのです。権威様なんて我々の人生に何ものをももたらさない。だったらさっさとこいつらを無視する人生を送るべきなのです。ラーメンの「バリ固」も不要です。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年7月14日号掲載

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